スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

ドイツ・ワイン紀行 〜 太古の海と石の記憶、Mosel 〜

          IMG_5682.jpg

ドイツ・ワイン紀行 〜 太古の海と石の記憶、Mosel 〜

MoselMap(Riesling Renaissance)

 いつから、アルコールの高いワインが良くて、低いワインは悪いというイメージが残ったのだろうか。今から数年前、世界中で、より高いアルコール分を求める風潮の時代があった。度数14-15%のパワフルなワインが求められ、葡萄は完熟というよりも極端まで過熟することが良しとされ、それにあわせて新樽で味わいを補強しなければ評論家が良い点数をつけなかった。新しいワイン産地は、それぞれのテロワールにあったワインを探索するよりも、生産者の単なる自己顕示のためのワイン造りに陥ってしまったのである。何もアメリカ人的嗜好を非難するわけではないのだが、いきすぎたアルコールに対する熱意は、それと合わせるべき料理との相性を完全に無視した動きであったと思う。しかし近年、高級志向のレストランの料理が、より軽さを、繊細さを求める動きにあって、ワインのスタイルも変わりつつあるようだ。すぐには頭痛にならないで、何杯でも飲めるようなワイン。低アルコールでも、味わい深いワイン。タニックな赤ワインよりは、白ワイン。このような状況において注目すべきであるのは、ドイツの白ワインであろう。アルコールは低くても、葡萄の果実味、ミネラルを豊富にもったワイン。ドイツの中でも最も歴史古く、古来より親しまれてきた Mosel(モーゼル)のワインこそ、現在のニーズに最も答えうるワインの一つということができるのだ。

IMG_5609.jpg

 Mosel(モーゼル) ワイン。
 フランスからリュクセンブルグを通ってドイツに入る Mosel河は古来より葡萄生産の銘醸地として知られてきた。Mosel河は ドイツ最西のTrier(トリアー)から北東のKoblenz(コブレンツ)まで流れ、そこでRhein(ライン)河に合流する。その間の Mosel河の両岸には古生代の土壌の急斜面が続き、葡萄を栽培するのに最もふさわしい場所が形成されている。特に Riesling(リースリング)のように、晩熟で、水分ストレスを嫌うこの品種にとっては、「約束された地」でもあった。現在、白ワイン9割に対し、赤ワインは1割となっていて、白ワインの中でも、Riesling種が全体の60%を占め、他にMüller-Thurgau14%,Elbling6%,Kerner4%の割合でワインが作られている。Mosel地方の土壌は、主にDevon(デヴォン)紀のシスト土壌で、石英、石灰岩、砂岩、火山岩の土壌がワインの味わいの深みに影響を与えている。

IMG_5822.jpg
Trierの街並み

 今回の訪問では、この地方の中心都市 Trier(トリアー)に滞在した。 Moselのワインは2007年まで Mosel-Saar-Ruwer(モーゼル・ザール・ルーヴァー)という風に呼ばれていた。主流となるMosel河に、支流であるSaar河とRuwer河を含む産地の総称である。Trierの街は、Saar河とRuwer河が Mosel河に合流するちょうど中間に位置し、古来より重要な中継地点であった。この古都市は紀元前15年に初代ローマ皇帝アウグストゥスの治世の下に建設され、さらに西ローマ帝国の時代には首都にもなった場所である。紀元4世紀に、Bordeaux生まれの詩人 Ausonius(アウソニウス)がこの地に移り住み、この地のワインを讃える詩 Mosellaを書いたことで有名で、この時代からすでに、素晴らしいワイン造りと、そのための葡萄畑が開拓されていたことが窺い知れる。

          IMG_5802.jpg
          Porta Nigra(ポルタ・ニグラ)と呼ばれる、ローマ時代の門。Trierの街のシンボルともいえる建物。



Weingut Van Volxem

 Trierから南へ約10kmほど南に至ると、Saar(ザール)河の流れに沿って葡萄畑が見いだされる。この地には「女性的」と形容される、優美なRieslingの産地として知られる。そのSaar地方を代表する造り手にまで成長した Van Volxem(ファン・フォルクセン)を訪れた。

IMG_5520.jpg

 ワイナリーにつくと、非常に背が高く、知的なオーナーの Roman Niewodniczanski(ローマン・ニヴォニツァンスキ)が歓迎してくれた。彼はドイツで最もメジャーなビール、 Bitburger創業者Theobald Simonの孫として生まれ、Trier大学では経済地理学と経営学を専攻し、その後、ビール業とは違った仕事を見つけるべく、ワインの世界に入った。南アフリカ、カリフォルニア、ニュージーランドで研修し、そして最終的に自分にとって理想のワインは故郷ドイツにあると確信し、Saar地方はWiltingen村のワイナリーを運営することにした。Wiltingen村のワインこそは、彼が初めてワインに感銘を受けた、Egon Mullerの'71年ものと同じ村であったからである。そしてそれを飲ませてくれたのは、他でもなく、彼の祖父であった。Mosel地方においては至る所で看板を見かける "Bitte, ein Bit(お願い、Bitburgerをもう一杯)"のキャッチフレーズで、Bitburgerを一躍ドイツを代表するビールにおしあげた、彼の祖父こそは大のワイン通でもあったのだ。だから彼のテイスティングルームに通されて、まず目を見張るのは、骨董価値のありそうなピアノでも、調度でもなく、棚の上に所狭しと飾られた世界中の名酒の空き瓶であった。そのすべてのワインが、コレクター垂涎のワインばかりである。Bordeaux,Bourgogneは当然として、どれもが古く、偉大なヴィンテージのものなのである。こんなドイツの片田舎にまで、ワールドクラスのワインが空けられ、そして賛美されていったのだと思うと、このワイナリーの造り手との距離はグッと縮まってしまうのであった。

IMG_5519.jpg


 Van Volxemはもともと18世紀に、リュクセンブルグのイエズス修道会によって作られたワイナリーであり、Romanがこの45haのワイナリーの舵取りをすることになったのは1999年。96%Riesling、4%Weissburgunderの、平均樹齢約40年(フィロキセラ禍以前の樹齢130年の樹を含む)の畑で、ほとんどが自根の葡萄の樹であるという。着任してすぐに彼の行った改革は主に、畑仕事の徹底であり、まだドイツには根付いているとはいえなかった有機農法を採用したことである。さらに植樹法もマッサル選抜によって行われ、かつて、私が働いていたフランス・アルザスのDomaine Marc Kreydenweissの畑のものも使っていたと言う。収穫時期は遅く、しばしば10月後半に始まり、収穫はすべて手摘みなのは勿論、徹底した選果を行う。緩やかで長い時間をかけてのプレスを行った後、ドイツ製伝統的大樽(ステンレスタンクも)で熟成する。収量は約40hl/ha。彼が仕切って以降、このワイナリーの評価はどんどん上昇し、いまやドイツを代表する造り手まで駆け上がったのである。

IMG_5522.jpg


試飲(Riesling品種のみ)

Schaefer '12 12%
微発泡している。淡く、透明の色調。青リンゴ、ライム、軽くハーベイシャスなノート。軽やかでバランスとれたワイン。地方名格ワイン。夏場に飲むワイン。

Saar '12 12%
先のワインより発泡はなく、より濃い色調。ゴールデンデリシャスのアロマ。よりヴルーテっぽく、濃厚。このワイナリーらしい、果実の強い濃縮感を楽しめるワイン。

Wiltinger Braunfels '12
少し微発泡。アロマティック、リンゴ系や柑橘系のより複雑で、ドキッとする香り。石の個性からくるスパイシーなニュアンス。村名格。

Alte reben '12 12%
いわゆるヴィエイユ・ヴィーニュ(古樹)ワインで、この造り手を代表するワインであると言える。赤リンゴの強く優美なアロマに、口の中で、柑橘のヒントが溢れ残る。最もリッチで堂々たる風格があり、素晴らしい余韻。

          IMG_5534.jpg
     Scharzhofbergerの畑。Saar河の青シストは、Mosel河の青シストとたいして違いがあるわけではない。

Goldberg '12 12%
リンゴ、シストのスパイシーなアロマと、青さを感じせるレモンの香り。味わいはフレッシャーで微かな苦みが残る。やや荒削りで、もう少し時間が必要か。

Volz '12 12%
澄んだ香り、リンゴ、後味が紅茶のヒント。口当たりのネットリしつつ、クリスタリーなバランス。非常に繊細な味わい。後ろ髪をひかれる、美しい魅力を残したワインである。

Altenberg '12 12% 
リンゴ、さらに繊細な柑橘のアロマ。フレッシュで伸びがあり、強い酸味が味わいを引き締める。

Rotschiefer '12 10.5%
スモークした香り、赤いリンゴ、ライムの香り。優しく甘さがあり、赤シスト特有の果実味が口の中で弾けるように残る。

Goldberg spätlese '10 8%
過熟したリンゴ、ボトリティスからくるアロマ、蜂蜜、干しぶどう。荒削りで、神経質、バランスがあまりとれていないがこの熟度でこの値段ならば、コストパフォーマンスは非常に高い。甘さと酸の綺麗なバランス。

IMG_5525.jpg

 この造り手のワインからは、とても強い葡萄自体の力を感じさせられる。フルーティーであるということは勿論だが、味わいの奥に一本の芯の強さを発見する。ある種のテロワールの持つメッセージ性。ドイツワインの多くに見られる欠点、すなわち、潔癖主義すぎるワイン醸造の結果として生まれる、非個性なワイン生産が、この造り手には皆無である。研ぎすみすぎて、欠点のないワイン造りは、結局のところ、躍動感溢れるワインも、感情を揺さぶるようなワインを生みはしない、というフランス的なメンタリティーに類するものをこの造り手にも見いだせるのだ。潤沢な資本、歴史的に証明される優れたテロワール、そして造り手が大のワイン通であるという三つの強い理由がある以上、もはやただの辺境の一ワイナリーという風にはくくれない。Van Volxemは既に、ドイツを代表するワイナリーである。

IMG_5531.jpg
Scharzhofberger(シャルツホッフベルガー)という偉大なる畑がある。ほぼ真南向きの傾斜をもったWiltingen村の中にある畑だが、ワイン名表記は Wiltingerではなく、Scharzhofbergerという風に表記される。ChambertinやCortonがそうであるように、偉大ゆえに、畑名そのものが、ワインエチケットにかかれることをドイツでも例外的に許された場所。この地は Egon Mullerという生産者の存在によって、神格化されたものの、フランスの多くの産地と同じく、ナポレオンの相続法を受け継いでいるため、複数の生産者によって分割所有されている。20世紀最高のワイン評論家、Frank Schoonmaker(フランク・スクーンメイカー)をして「1959年と1964年ものの素晴らしさに匹敵するワインは世界中探してもそうそうない / 偉大なヴィンテージに収穫された Scharzhofbergerは『完璧』と同様の意味をもっている」と言わしめた畑。



Weingut J.J. Prüm

IMG_5564.jpg


 Mosel(モーゼル)の葡萄畑を巡っていると、所々で日時計(Sonnenuhr)を見かける。ドイツやフランスの古い街の中でもみかける、太陽の日の位置をもとにした時計で、それが葡萄畑の中にあるのだ。太陽の光を Mosel河が反射して光り輝くことをちゃんと計算に入れた日時計は、葡萄が育つために、同じく反射光の恩恵を受けている Moselワインの性質を如実に物語っているのだ。いくつもある Sonnenuhrという畑の中でも最も有名なのが Wehlener Sonnenuhr(ヴェールナー・ゾンネンウーア)である。その高名な畑のうち、7.5haを所有し、そこで生まれる辛口・半甘口・甘口のすべてがドイツを代表するワインを産する造り手、J.J. Prüm(Johann Josef Prüm; ヨハン・ヨーゼフ・プリュム)を訪問する機会を得た。このPrümのワインには個人的に深い思い出がある。もうかれこれ10年も昔、このワインをParisのとあるレストランで飲んで衝撃を受けた。繊細さ、ミネラル、それを、グリーンピースのムースと合わさった時の、優しく、純真なマリアージュ。フィネス。フランスのワインだけが、それを持っているのではないと理解し、そして深く感動した思い出。このワインとの出会いから、私は Sommelierになりたいと強く心に決めたのだった。

          IMG_5629.jpg

 Wehlen村は Trier(トリアー)から東、約50km、そしてまたMittelmosel(中モーゼル)の中心都市 Bernkastel(ベルンカステル)の北 4kmの地点に位置している。Weingut J.J. Prümは、そのWehlen村の河川沿いにひっそりと居を構えていた。ワイナリーから河の対岸を見るとすぐさま目に飛び込んでくるのは、巨大な葡萄畑の壁。そう、聞くまでもなく、この巨大な畑こそが、Wehlener Sonnenuhrである。そしてやや北方に一つの日時計が目に入る。生憎と曇りがちな天候で、時計の針は時間を教えてはくれなかったが、その日時計はただ一つ、葡萄畑を見下ろしていた。

          IMG_5563.jpg


 現当主、Manfred Prüm(マンフレッド・プリュム)の娘、Katarina Prüm(カタリナ・プリュム)がワイナリーを案内してくれた。2003年よりワイナリーに参加した彼女はまだまだ若いのに、世界中のワインについて通暁している。すでに深いワイン人生を送ったのであろうことはすぐ見て取れる。その彼女が各国の言葉を流暢に話し、Louis Jadot社の輸出ディレクターである Sigfried Pic(シーグフリード・ピック)氏が同席していたこともあって、フランス語で解説してくれたのは幸いであった。

          IMG_5567.jpg
「私たちのワインは、優れた品格と味わいを持ったものですが、何より大切なことは、どこの国に見られない唯一の個性をもったワインであるということです」試飲に祭し、彼女はそう力説した。

試飲

Bernkasteler Badstube kabinett '11 9.5%
最初に試飲した三つのテロワールの一つ。これらのテロワールは互いに横につながった畑で傾斜もほぼ一緒だが、それぞれお互いが少しずつ異なった味わいを持っている。最も薄い色調でやや軽い。薬草のようなアロマ、スパイシーさ、フレッシュなリンゴの香り。口当たりはとても、弱く、軽い。最も酸味が強く、爽やかなワインである。

Graacher Himmelreich kabinett '11 9.5%
Graacherは、葡萄が最も熟し易いテロワールであることもあり、ワインの色調が色濃く、アロマティック。複雑味も強く、スパイシーかつ、フローラル、焼きリンゴのニュアンスが強い。「'11はバランスがとれた年」とKatarinaが言うように、強いアロマと味わいの調和が綺麗にまとまっていた。Wehlener Sonnenuhrのすぐ南に位置し、ほぼ同じ傾斜の畑。

Wehlener sonnenuhr kabinett '11 9%
まだまだ若さを感じる。還元香が強く、時間とともにスパイシーさ、りんごの蜂蜜のような香りが立ち上ってくる。壮大で、ミネラリー、そして柔らかい味わい。

IMG_5568.jpg

Wehlener Sonnenuhr spatlese '11 8.5%
スパイシーなアロマだがで、まだ荒い酸味。軽やかで、アエリアンな味わい。'07のように早い開花による成熟までのハングタイムの長さが、熟成可能なスタイルのワインなのだと思える。

Wehlener Sonnenuhr spatlese '07 8%
紅茶、ダージリン、クリーム、少しスパイシー、まだ飲むにはちょっと早いが、丸みのあるプロポーションは好感がもてる。

Wehlener Sonnenuhr spatlese '04 8%
青リンゴのアロマ、つい今しがたワインの味わいが開き始めたような優しいタッチ。そう、非常に若いニュアンスで、先の'07よりもまだまだ若いのである。それもそのはず、この年は若いとき、非常に閉じていた Katerinaは言う。さらに少しボトリティスがあったといい、ほんの少しエキゾチックさも垣間見える。合わせる料理は「魚、ホタテ、オマール、ラングスティーヌ、ドラード、ソースヴァンブラン、ういきょう」に。

Wehlener Sonnenuhr auslese '04 7%
青リンゴ、クリーム、スパイシーの香り。しかしSpatleseと比べても硬い! 紅茶のヒントが出てくる、アウスの方がより丸kく、より角のとれてバランスがよくなっていく。「オマールフレッシュ、赤身肉、鴨肉オレンジソース、鹿肉、イノシシ、ガレット・デ・ロワ、フォワグラ」に合わせると良い、とのコメント。

Wehlener Sonnenuhr auslese '03 8%
予想通り、ジャミーで、果実のコンフィのアロマ。味わいはローストがかって濃密、しかし、余韻は少なくなった。強烈なアタックをもったワインである。「'04とは全く世界が違うわ。確かに素晴らしい出来であった'04の方が、典型的なヴィンテージにはなりました。でも'03の完成度はとても高くなったので、どちらが上か、ということは言えないでしょう。ただスタイルが違うだけなのですから」。レモングラスのシロップをかけたパパイヤのデザートと完璧なマリアージュした、とKatherine。



IMG_5579.jpg
プレス機。ここ20年来ステンレスタンクのみの醸造で、発酵には自然酵母を使用。

 BourgogneにおけるCaillerets(石ころ)やPerrières(石)が最良の一級畑であるのは、この地において石灰岩が重要だからである。それと同じような理由で、MoselにおいてSonnenuhr(日時計)と名付けられた畑は、モーゼルの中でも Maring、Brauneberg(Juffer-Sonnenuhr)、Wehlen、Zeltingen、Urzig、そして Pommernに存在し、そのいずれもが当地を代表する優良畑である。他にもSonnen(太陽)に因む畑もある。つまるところ、Moselにおける優秀な畑の定義とは、日時計が中心にかけられるほど、太陽が常にあたる場所の事であり、いかに太陽光を享受しているのか、ということが重要なのである。
 その優良な畑の価値を世界的に知らしめ、牽引している造り手こそが、この J.J.Prümである。

          IMG_5583.jpg
一瞬だけ、日時計に光が射した。J.J. Prümの葡萄畑は縦向きに仕立てる。テラスにしないのは、水分供給をうまく導くためである。縦向きということは、定期的に失った表土を上に運ばなければならないから、大変である。植樹密植度は基本的には1m x 1m20の1ha当たり7000樹だというが、周りの造り手は仕事の簡略化・機械化(キャタピラ)のために広げる傾向にある。ただし除草するために、小さなトラクターを使う(馬は使わない!ラバを使うところもあるようだが?)が、シスト土壌はそこまで草が生えるほど肥沃ではない。7割の畑は自根であるという。




Dr. Loosen



 Bernkastelから北へ、WehlenとZeltingenを越えて、Urzig(ウルツィヒ)村に至ると、明らかに今まで見てきた土壌とは異なった風景が見いだされる。そこまで続いていた青シストの急斜面とは打って変わって赤い土壌が広がっているのだ。砂岩や赤シスト、そして火山岩の混じった、特殊な風景。この地はモーゼル河の成り立ちに深く関わる、重要な断層が表出した場所なのである。

IMG_5668.jpg

IMG_5670.jpg


Mosel河の右岸には、Saar河とRuwer河のテロワールが広がっていて、下流の方が上流に比べより温暖という違いはあっても、いずれも同じ古生代のシスト土壌に属している。この地区の至るところで見いだせる青シストは、今からおよそ3億7500年前のDevon紀に海中の粘土が堆積して生まれた岩石である。気の遠くなるほど、長い時間をかけて生まれたこの土壌にはまた、石英や動物と植物の化石も発見できるという。 Hunsrück(フンスルック)山地と呼ばれるようになった Mosel河の右岸の山地帯は、東方のNahe(ナーエ)の地まで続いている。右岸を中心に形成される青シストの丘は、このDevon紀の土地の記憶なのである。それが約3400万年前から始まる漸新世に至ると、地殻プレートの活発な動きによって、Hunsrückは今の Mosel河に滑り込む形になり、そして現在の左岸にあたる一帯では、Eifel(アイフェル)火山が活発に活動しはじめる。左岸において火山岩と砂岩の大地を時折見かけるのは、この時代の地殻運動が原因となっているのである。その HunsrückとEifelの衝突した瞬間の跡が残っている場所が Urzigでは観察できるのだ。


Eifel.jpg

          IMG_5665.jpg


縦向きの赤いシストに強引にも割り込もうとしている青いシストの断面像。太古の二つの地層の激突が引き金となって、Mosel河は生まれ、それぞれの岸に古代の地層が露出することになった。ここに特徴的な青いシストと赤いシストのゾーンがうまれる。青い土壌は、ミネラリーで、赤い土壌はスパイシーだとこの地の人間は考えている。二つの土壌をあまりにもあからさまに極論づけるのは危険だが、この地に足を踏み入れれば、その色調のコントラストの差異に、そう言いたくなる気持ちが理解出来る。実際、より時代が新しく、酸化が進んで赤くなったシストには、鉄の成分が多く含まれるのだから。


IMG_5602.jpg
青シストと火山岩。オーソドックスなワインはスクリャーキャップを使う(アジア、アメリカ、UK)。それは、よりフレッシュな味わいをワインに残す事ができるから、のだという。

青いシストと赤いシスト。
その二つの特徴的な土壌をバランスよく所有する一家がある。Bernkastel村のWeingut Dr. Loosenがそれである。
もともと Urzigと Erdenに多くの畑を所有していた Loosen家は Prüm家と結びつく事で、Wehlenの区画を自分たちの自社畑に加えることができた。現当主の Ernst(通称 Erni)はもともとローマ遺跡に興味あったが、兄弟のだれもがワイン造りに興味なかったために、なかば強引に経営に参加することになった。 そしてErnstはまずガイゼンハイム醸造学校で学び、オーストリア、ブルゴーニュ、アルザス、カリフォルニアを旅することで、ワイン造りを学んだ。1988年より、ワイナリーの長となり、もともと評価の高かったこのワイナリーに名声を押し上げ、いまでこそ、ドイツでもトップ10のワイナリーの一つにまでなったのである。

          IMG_5600.jpg
          St Johannishofという名のワイナリーの家屋。


試飲

Rotschiefer trocken '12
 名前の通り、「赤シスト」の土壌の葡萄のみを使用。ライチ、ピーチの香り高いアロマに、フレッシュな酸味が続く。

Graacher trocken '12
 スパイシー、グーズベリー、凛としたヒント。ニワトコのニュアンス。欠点は、葡萄の成熟感をあまり感じられなかった事。

Bernkasteler Lay trocken GG '12
 りんごのアロマが顕著。同時にとても爽やかで、フレッシュな味わいの果実味が強くでている。青シスト。

Wehlener Sonnenuhr trocken '12 12.5%
 グーズベリー。スパイシー。品格に溢れる。凛としたその佇まいの個性があり、余韻の長さは圧巻。7haを所有。樹齢80-90年の自根。3000lの大樽で、自然酵母による発酵。シュールリーのまま12ヶ月熟成。

          IMG_5674.jpg
          Ürziger Würzgarten

Ürziger Würzgarten trocken '12 12.5% 樹齢125年
 スパイシー(Würz)、生姜の香り。さらに、セージ、ホワイトペッパーとのコメントは正に良い得て妙えあった。味わい強く、素晴らしい個性をもったワイン。赤シストとまばらに混じるエイフェル火山岩の影響。
 
Graacher Himmelreich feinherb '12
 少し青い。りんご。口当たり優しく甘い。Feinherbとは、Feinが繊細さを、Herbが辛口を意味し、halbtrocken(半分辛口)という名称を嫌って、変えたもの。大体、halb(半分)というのはネガティブな意味をもっているのだから。ドイツ郷土料理のスモーキーな魚と、ホワイトアスパラに完璧である。アミューズにも良い。アスパラ、ハム、芋の産地であるからこそ、このカテゴリー(少し甘いが酸が強い)のワインが食事にはピッタリである。

          IMG_5695.jpg
           Treppchen(小さな階段)。この畑は、Moselでも屈指の超急斜。

Erdener Treppchen Spätlese '12 7.5%
 「小さな階段」。ピーチ。フリンティさ。次のワインとは違い。ボトリティスはないが、より甘口。鉄分豊富な赤シストの土壌。2012年はカビネットとシュペートレーゼが良好な年だと言う事で、素晴らしい酸味と濃縮感を楽しめるワイン。「甘くても酸がとても強いから、非常に飲み易い。気軽に飲めるワインだ。ソーテルヌやボーム・ド・ヴニーズなどと同じ甘口ワインのカテゴリーでイッショクタンにして欲しくはない」との事である。

Erdener Treppchen Auslese '12
 紅茶、蜂蜜、ボトリティスのヒント。クリーミーで夢見心地の味わい。同じ畑の同じ収穫日のワインだが、上記のワインとの違いは選果の仕方。貴腐まじりのみ選択したのがこのワインである。ところでSpätleseより甘いんだよね、と聞いたら怒られた。ドイツの糖度の計り方はエクスレ度で計るのであって、糖度を基本にはしない。feinherbの方が甘いときもありえるわけだ。

IMG_5623.jpg
Graacher Himmelreichの畑。96%は自根の樹で、平均樹齢60年-85年。どうしてこれだけ古い樹が病気にも負けずに生き残っているのだろう、と考えてしまったが、そういえば、自根の樹の畑はベト病やうどん粉病にかかりにくいという話を以前聞いた事があったような気もした。



赤いシストは Devon紀後期のもので、酸化作用によって色が変わったのだと言う。青いシストのワインは品性があって、エレガント。赤いシストのワインは、フルーティーでアプリコットのようなエキゾチックなニュアンス。青い色はエレガントで、赤い色はエキゾチック、と聞くと、アルザスのワインが頭に浮かんだ。それはなぜ、アルザスはGewurztraminer品種に向いているのかという答えになるから。アルザスは青いスレート、ムッシェルカルク石灰や白い花崗岩を探すよりも、どちらかというと重たく、赤い色をした石や土の方が多い。こういった土壌はどちらかというとPinot系品種、そしてGewurztraminer品種に向いた土壌である。それぞれの土壌にあったワインという意味で、Riesling品種のみを植えているワイナリーは多く、Dr. Loosenも100% Rieslingなのであるが、完成された造り手のワインは他に無駄な選択肢が少ない。多少の例外はあっても、Rieslingという品種の繊細な個性の差をこれだけ表現できる地方は他に無いのだから、これのみがあれば良い。Bourgogneが、ジュラ紀の石灰質の繊細さを、Champagneが白亜紀のチョーク質の麗しさをそれぞれ Pinot Noirと Chardonnayで表すのであれば、Moselはデヴォン紀のシストが持つ、厳格さを Rieslingによって顕現してくれる場所である。

          IMG_5692.jpg
Erdener Trepchenの畑では、ジェットコースターみたいな電動式レールを使って作業する! こういうものが必要な産地もあるとは驚き。





Weingut Selbach oster


          IMG_5653.jpg


 Zeltingen(ツェルティンゲン)村は、Bernkastel-Kuesからモーゼル川を北西に8km下った場所に位置する。雨が降ってはいたものの、葡萄畑を観察したかったから、小傘をさしつつも、険しいシストの丘を通って、その行程をひたすら歩いた。Graacher Himmelreich,Wehlener Sonnenuhr,Zeltinger Sonnenuhrを歩けば、その場所で畑作業する苦労や、辛さがいたい程にわかる。少しでもバランスを崩すと、崖下にまっさかささま。ここは世界中の葡萄畑の中でも最も急な斜面の場所なのだ。Zeltingen村にようやくついた時には日は暮れかかっていたものの、雨はあがったようだ。天候の移り変わりの激しい地方なのだろうか。そこは川と畑に囲まれた、中世風の小綺麗な村で、北のRachtig村と隣接している。今回の訪問ではこの村で宿泊する予定だったので、幸運にもZeltingenのワインレストラン Zeltinger Hofで食事する機会を得た。この店はMoselはもちろん、他の産地のワインを100種類以上グラス売りしているレストランで、あの造り手のワインも飲める、あの畑のワインについて比べられる、古いワインが飲める、と非常に良い勉強になった。Moselのワイン産地を巡られる方は是非ともこの店に行ってもらいたいものだ。

          IMG_5588.jpg


 さて翌日は、気持ちの良いくらい快晴で、昨日までの鬱々とした天気が嘘のようだった。ボートの停泊している河川沿いに小洒落た家屋が連なっていて、そんな家の一つにWeingut Selbach-Osterは居を構えていた。呼び鈴をならすと、穏やかな面持ちの Johannes Selbach(ヨハネス・セルバッハ)が迎えてくれた。「今週・来週と続いて晴れそうで、天気がよくないから、この後は、葡萄畑に行ってアイスワイン用の畑を片付けなくてはならないんだよ」と残念そうな面持ちで述べた。なるほど確かに、葡萄畑ではただ晴れれば良いと言う訳ではない。アイスワインのための葡萄は、非常に冷え込んだ天候のもとでしか得る事はできない。「ここはアイスワインをつくるのに適した産地なんだけど」と述べるアイスワインは、彼が蔵を継いで以降、'85,'86,'87,'88,'89,'90,'91,'92,'93,'94,'96,'98,'01,'02,'04,'07,'08,'09,'10,'12 と、ほぼ毎年作り続けているのである。「一般的にはアイスワイン用の葡萄は11-12月ごろまで待つのだけれども、そのためには実の衛生状態が良好なこと、酸化していないこと、房がよく乾燥していることが重要だ」そうで、さすがに訪問した2月はすでにタイムリミットであったようだ。それでも、まだアイスワイン生産のために畑が氷結するのをあきらめずに粘って待っている生産者は、この訪問中の間、彼方此方では見かけたが。

試飲

IMG_5656.jpg
Zeltingenの三つのGrosses Gewächsの違い。「Sonnenuhrは岩が多く、反射熱が強い為、比較的暖かい。ワインはシャープでドライなタイプになる。アイスワインは生産できない。Schlossbergは街のすぐ裏にあり、夏は暑い。街が畑を温めるので、ビックボディ、最も男性的な個性となる。霧がち。カビネット向きの畑。すこしだけ、Sonnenuhrより急な畑。古い樹。アイスワインを作れる冷涼な区画を所有している。Himmelreichは Sonnenuhrに似て急な畑。東向きで、少し冷涼な畑である。冷たい印象のワインとなる」


Riesling kabinett '12 11.5%
 フローラルで、レモンの香り。弱くか細いアロマだが、芯の深さがある。味わいはミネラルで、繊細さなワインだが、深く強い。牡蠣に合う。

Zeltinger Schlossberg spätlese '12 13%
 レモン、フローラル、バラのニュアンス。非常にフレッシュ。のど越しさわやかでピンと張ったワイン。もう少し伸びがあれば、と唸ってしまったが、ピュアな印象は常に好感を持てる。

Bömer'11 12.5%
Schlossbergの区画から生まれた特殊なキュヴェ。力強くソリッドなワインを目指して作られている。スタンダードキュヴェとは全然違う濃密さ。カリンや、濃いレモン、イチゴ、などのアロマ。Mlfしてないのに、強く凝縮したワインを使えばここまで強くなれるということを見せたワイン。

Zeltinger Schlossberg spätlese '08 12%
 少し火を入れたようなレモンコンフィの印象。エレガントなプロポーション。透き通るような、優しい味わい。ちょっと早いが熟成香が出始めている。

Graacher domprobst spat feinherbe '11 11.5%
 スパイス、レモン。マイルドで、とても柔らかい、素晴らしいバランス。青シストにローム土混じりの比較的重い土壌。Graacherらしい、ふくよかなボディをもっている。

Zeltinger Schlossberg kabinett '12 9%
 沈黙のワイン。デリケートで、繊細なアロマ。しかし、少し口に含んだ瞬間からぱあっと囁き始める。品格と美しさを兼ね備えた麗しい味わい。残糖45g。

Zeltinger Schlossberg kabinett '01 8.5%
 上記のワインと垂直できるようにと出してくれたワイン。さすがに熟成香がでているが、まだまだ健在といった印象。石のアロマが口の中で語りかけてくる。オイリーでミネラルな味わい。残糖40g。「まだお化粧を覚えていないような純真な乙女」

Zeltinger sonnenuhr spätlese '12 8%
 ジンジャー、ボンボン、梅のアロマ。プロポーションが非常に整っていて、優しい甘さ。長い余韻が残る。非常に急な斜面の畑で、5haを所有。

Zeltinger schlossberg auslesse '12 8% 
 ジンジャー、スパイシーさ、レモン、ハーブ、イチゴと、複雑な印象。味わいは優しく、ごてついたような印象がなく、ストレート。まっすぐな味わい。「パテ・ド・カンパーニュ、フォアグラ・ムースに合う」との事。


Zeltinger sonnenuhr Beerenauslese '06 8%
 ハニー、濃縮ミカン、金柑。甘ったるいわけではなく、酸とのバランスが良く綺麗に長い余韻。


 彼のワインはとてもクリーンでエレガントな作風である。ゴテゴテした印象はなく、口の中に優しく染み渡り、残る。常に強いピュアな濃縮感があり、心地よい花と果実の味わいがしっかりと残り、かといってクドくない。痩せた印象はまったくない。

IMG_5636.jpg
Selbach-Osterの Zeltinger sonnenuhrの畑の一つ。ちょっとでも足を滑らせれば、車道に真っ逆さまの急斜面。この造り手が所有する畑は全部で21haで、Zeltingen村の畑を中心に、Wehlen村、Graacher村、Bernkastel村の畑を所有。4割は1000lのドイツ製大樽で熟成し、それ以外は最大3000lのステンレスタンクとガラス繊維タンクを使用する。「我々はオークの助けなくても、良いワインを作る事はできる、ミネラルとフレッシュ感にあふれるワインができる恵まれた産地にいる」という彼の信念に見られるように、樽香を出来る限りつけたくないので、新樽は使用しない。

 この地方のヴィンテージについて、彼に詳しく聞いてみたので、それをここに付記する。

2008年; 近年で最も平均的な性質のヴィンテージとなった。モダン・スタンダード。比較的冷涼な年だったが、衛生面では問題はみられず、ボトリティスはほとんどつかなかったほどだった。結果としてワインは綺麗な酸味と素晴らしい糖度も持ったものとなった。
2009年; とても熱い年だった。収穫は早まり、糖分は非常に高くなった。強すぎない、綺麗な酸を得る事ができた。蜂蜜やパッションフルーツ、ピーチ、アプリコットのエキゾチックな香りが強い。ボトリティスは例年並みで、甘さを強調させない甘口ワインができた。
2010年; びっくりな年だった。夏は暖かく、秋も暖かいままだったが霜がちだった。だから非常に信じられないくらい酸が高い上に糖分もかなり高くなった。だからとても素晴らしい甘口ワイン(今まででもベスト)が生まれた。
2011年:フランス全土でそうであったように、かなり早い春だった。結果をいうと、葡萄はとても甘いが酸は少なかった。良いボトリティスがついた年だよ。'10年産がダリ・ピカソなら、'11年産はルーベンス(バロック)だ。
2012年;冷涼だったが、美しい9月のおかげで完璧な熟成を得られた。夏の期間はよくグリーンハーヴェストをして選果したものだ。この年の出来はゴシック建築に例えられる。
2013年;春の雨の所為で花ぶるいが多かった。しかも夏もあまり良くなかった。収穫期には天候が変わったが、収穫は遅かった。高い酸味のあるヴィンテージだった。収穫量が低く、注意深く良く選果した造り手が成功した。

          IMG_5657.jpg

各ヴィンテージの天候は、なんとなくフランスのそれと重なるものが多いが、しかしワインの出来の印象は若干異なる。一辺倒なヴィンテージチャートは意味をなさない。辛口ワインにはこの年が、Ausleseクラスにはこの年が、アイスワインにはこの年が、と実に微妙な天候の変化で善し悪しが変わる。それはこの地がただ暑ければいいわけでもないという単純ではないミクロクリマに起因しているのだ。極上のアイスワインをつくるためには、冬の期間にタイミングよく寒波が来てくれなければならない。アイスワインは努力云々で作れるものでもないが、長年の経験から、葡萄畑が上手く氷結するであろう畑は見つけ出されている。今年は上手く行かなかったが、来年にはSelbach氏にまた収穫のチャンスが訪れられるよう祈るばかりだ。



IMG_5711.jpg           IMG_5712.jpg

こちらの畑はSelbach-Osterのものではないが、アイスワイン生産のために葡萄が氷漬けになるのをジッと待っている畑。動物に食べられないようにビニールを張っている


       mosel-bridge.png
この村とUrzig(ウルツィヒ)の間に、巨大な高架橋を建てるプロジェクトが進んでいて、多くのワイン愛好家の反対にも関わらず、計画は進行中である。





Weingut Reinhald Haart

IMG_5728.jpg


 Piesport(ピースポート)村のGoldtröpfchen(ゴルドトレプシェン)。
 南向き斜面の円形闘技場型をしたこの畑は、古来より優れたワインの産地として著名で、皇帝府がTrierにあった時代にはTrier市長舎に納められていたほどであった。『黄金の葡萄の雫』という名の通り、美しい色調と、とても香り高いアロマ、深い味わいをもったワインとなる。この畑のワインは、若い内は閉じこまって、還元した印象のままであるが、時とともにその個性は明らかになる。口に含んだ時に広がる、アロマの力強さが素晴らしいく、熟しきった柑橘類の力強い味わいが余韻として残る。このGoldtröpfchenの畑を筆頭に、4つのGrosses Gawächs(特級格付け畑)を所有する造り手、Weingut Reinhald Haart(ラインハルト・ハート)を尋ねた。

          IMG_5732.jpg

 いまでこそ3軒になったもののHaart家は、1921年ごろには7軒も存在したPiesport村の名家である。19世紀はじめ、フランスではナポレオンが作った民法典によって、それまで長子相続であった土地が兄弟による平等相続になった。短い期間ではあるがナポレオンの支配を受けたこのライン河以西の地方では、ナポレオンが失脚した後も同じ民法典が続けられることとなった(他のドイツの地方とは違い)。このことが、Moselのワインが、畑ごとに小さな造り手が所有し、所有権をめぐって兄弟が争ったり、政略結婚するといった、Bourgogneに似た風土を生み出す事になったのである。ナポレオンの影響力は驚く程大きい。現当主は Johannes Haart(ヨハネス・ハート)で、父 Theo Haart(テオ・ハート)とともにワイン造りに励む。WinterlicherとPiesportにある、計8haの自社畑から、Riesling品種のみでつくるワインを生産している。自然酵母による低い温度で発酵を心がけ、大半はステンレスタンクで醸造し、上級キュヴェは1lの大樽を使用する。優しい甘みと酸味の美しいワインである。



試飲

          IMG_5735.jpg
エティケットには2つの紋章が描かれている。左のハートマークはHaart(ハート)家の紋章。十字と葡萄の房の紋章はPiesport(ピースポート)市の紋章である。


Mosel Riesling Trocken 2012 8.5euro
 地方名クラス。Bourgogneと同じく、段階式の形をとったワインで、これはAOC Bourgogneにあたるワインである。自社畑の複数の畑からのブレンド。レモンの果実味に、神経質な酸味が加わったデリケートなワイン。この少し難しかったヴィンテージは、選果して30%収穫量減した甲斐あって、出来は Johannesにとって満足の出来であったという。

Piesporter Trocken 2012 12.5euro
 村名クラス。ミネラリーで、レモンの皮のアロマ、フローラル。優しい個性のワイン。Wintrich村より土っぽいニュアンスがでるという。そしてより閉じた印象になるのは青シストの重い石ころが多いからである。

Winterlicher Trocken 2012 12.5euro
 同じく村名クラスだが、Piesport下流のWintrich村のワイン。より、「辛口に向く」テロワールを持つと言う。グーズベリー、Piesportのそれより開いて飲み易く、フルーティーである。

Grafenberg Kabinett 2012 11.5euro 9%
「伯爵の山」。この地では珍しい赤いシストの土壌で、Urzigのそれに似た石が露出した畑。鉄分と石英に富み、葡萄は果実味たっぷりになる。試飲した時は少し還元的で、冷たく閉じた印象。しかしフルーティーさが奥に見え隠れていて、味わいは優しいタッチ。

Goldtröpfchen Kabinett 2012 13 euro
還元している印象。冷たく、フルーティー、みかんのようなアロマ。

Goldtröpfchen GG 2012 23 euro 13%
Piesportを代表する畑。特級格付け扱いの辛口ワイン。スパイス、ライム、ピーチ、マンゴー、静かなワイン。

IMG_5739.jpg
Goldtröpfchen。

Kreuzwingert GG 2012 23euro
「十字架の畑」を意味する、とても小さな畑で、Weingut Reinhald Haartのモノポール。スパイス、グーズベリー、ライム、ハーブのヒント、優しく、フレッシュ。

Ohligsberger GG 2012 23euro
「石油の山」を意味する言葉。バランスがとれている。丸みがあり、わかりやすいテイスト。とはいえ、Rieslingらしいといえる石油香が全面に出たワインではなかったが…。

Goldtröpfchen Spätlese 2012 19.8euro 9%
冷たく、神経質。このGoldtröpfchenは「より甘口向き」の畑であると当主が述べるように、よりバランスのとれたワインに仕上がっている。ちなみにGGとは同じパーセルであるが、完熟をまって糖度を高めたものがSpätleseやAusleseに仕上がる。

Goldtröpfchen Spätlese 2010 19.8euro
少し、還元したノート。冷えたみかん、香りはまだ閉じている。しかし口に含んだときにひろがるアロマは圧倒的。エレガントで、ジューシー、とてつもないバランス感。偉大な甘口。今回の取材で最も感動したワインである。

Goldtröpfchen Auslese 2011 17euro(demie)
紅茶、フルーツのヒント、少し甘さが残る。「'11は典型的なヴィンテージ。パワフル」との事。



 Winterlicherは日中は暖かいが、夜は非常に涼しい。Piesportは常に暖かいので、葡萄の成熟度に適している。今回の試飲でWinterlicherとPiesportのそれぞれ Mosel右岸と左岸でできるワインを比較できたわけであるが、印象として残ったのは、比較的涼しく西向きで右岸のWinterlicher産のワインの方が、温暖な南向きで左岸のPiesport産のワインよりもフルーティーであったということである。いや、もっと正確にいうと、若い内はWinterlicherの方がアロマティックなのに、熟成にしたがってPiesportの方が開き、より強く花咲いていくということだ。

          IMG_5738.jpg
Johannes Haartは気さくな雰囲気の醸造家。ワイナリー名は、ややこしいという理由で、Weingut Reinhald HaartからWeingut Haartに変えたと言う。


ドイツ・ワインの糖度をもとにした古い格付けが即ち、ワインの品質の指標になっているとは思えない。Johannesは「甘口にこそ真価を見いだせる」と言っているが、それは AusleseともしくはBeerenausleseのカテゴリーにおいてである。「Trockenbeerenも出来るが、偉大なワインにはならない。Eisweinはできない。というのは、Trockenbeerenは、あまり降雨量の多くない場所に、Eisweinはとても冷涼なクリマの場所に向くのだから」とJohannesが言うように、Piesportはそのどちらにも適さない。しかし彼のワインを飲み比べてみて、甘口よりも辛口 Grosses Gawächs格のワインの方が高価であったのは意外としか言えない。それは、単純に需要があるからである。2000年からドイツのワイン法が改正されて、葡萄の糖度のみによらない、辛口ワインの等級(ClassicとSélection)ができたように、ドイツワイン界の辛口嗜好が戻ってきている。ただし、何がなんでも辛口にすれば良いと言うわけではないはずだ。需要に答えるためだけに、そのテロワールがワインにもとめるあるべき理想像を見失って欲しくはない。
 私が常々書いてきている事だが、それぞれの産地には理想的と呼べるワインのスタイルが存在する。Sauterneは貴腐ワインがあってのSauterneであるし、ChampagneはスパークリングワインあってのChampagneである。Sauterneの辛口ワイン、Y de Yquemや、ChampagneでもEgly-OurierのCoteaux du Champenoisのような数少ない例外は、それ相応の努力の後になされるものであって、自然な型によって生まれたものではない。Piesportを始めとするMoselワインは、少し甘く、それでいて酸味のあるワインとして作られる方が良いのだと思えるのだ。Goldtröpfchen Spätleseが見せてくれた、官能的なまでのアロマのふくよかさは、他のワインには決して見られない感動的な体験であったのだから。



総括

          IMG_5777.jpg
          RuwerのBruderberg。Maximin Grünhaus Von Schubertのモノポール畑。


 ドイツのワインは非常にクリーンで、清潔なものが多い。澄み切った味わい、研ぎすまされた酸。このドイツ的な味わいとは、真面目なドイツ・ゲルマン人気質がとても顕われていて、南方のイタリアやスペインのラテン気質と一線を画している。しかし、生真面目になりすぎるあまり、ドイツワインはある種の色気がないことがしばしばあった。どのワインも均一の味わい。つるつる研ぎすまされているが、無個性なワイン。その最大の原因は、潔癖さを重んじるゆえの、選択酵母の使用過多である。この人工的な酵母の使用が、恐らく衛生的な理由、ワインの安定感を求めすぎるといった理由のために、ドイツの産地の大半で使われすぎていると感じる。しかしながら、今回私が訪問したすべての作り手は、自然酵母による発酵を行っていた。ドイツでも意識の高い作り手は、皆、そういう選択肢を採るのであると得心が言った。Van Volxemのように、有機農法アプローチを採る作り手も増えてきている。

IMG_5788.jpg
Kaseler Nieschen。Ruwerを代表する畑。

「左岸と右岸の土壌の差もあるけれども、それよりも大切な影響は斜面の急さと向きだね。より南向きの斜面が陽光を得られるわけだけれども、Mosel河からの反射光の関係もあるから西向き斜面も悪くない」と、Johannes Haart は述べた。確かに、フランスはアルザスのヴォージュ山脈から延々と544kmもの長距離間を蛇行しつづける、Mosel河をただ一言、左岸と右岸の差で括るには無理がある。Mosel河のワインとは、冷涼な上流から温暖な下流の差、太陽の直射日光を受ける南向きと東向き斜面、反射光を受け易い西向きと北向き斜面の差、右岸の Hunsrück山地の青いシストと左岸に時折混じる Eifel山地の火山岩の影響、といった非常に細かいミクロクリマの中で生まれるワインなのである。

          IMG_5638.jpg
           Wehlener Sonnenuhrの青シスト。

IMG_5676.jpg
Erdener Treppchenの畑で見られる赤いシスト。

          IMG_5704.jpg
Urziger Wurzgartenの土壌。左上の丸い石が、火山岩である。この火山岩の存在が、ワインにスパイシーな性質を与えるのである。

 厳格な気候でとても寒く、葡萄がようやく熟すという北限の地方で、さらに降雨量も高いというマイナスの条件。それが Mosel河による反射光と、シストの石ころ自体の反射光、そしてシスト土壌が持つ高い排水作用のおかげで、気難しい Riesling品種の熟成は助けられる。ギリギリの完熟が可能となるのだ。いやむしろ、これほどの極限的な地であるからこそ、Riesling本来のストイックで芯の強い性質が引きたち、その真価を発揮するのであろうか。低いアルコールにも関わらず、アロマ成分が非常に高いこと、高い糖分があるにも関わらず、強い酸があるために糖を感じさせないという、素晴らしいバランス感が生まれるのは、他の国には見いだし得ない。これこそが Moselワインの神髄であり、唯一無比の個性である。


IMG_5719.jpg
Juffer Sonnenuhr。Moselワインを代表する畑の一つ。
スポンサーサイト
[ 2014/05/05 20:00 ] 産地 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://fwrw.blog137.fc2.com/tb.php/45-03b190ac





上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。