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Visit Report;36 Mas Julien

 Montpellierから西に車を30分も走らせると、標高900mにも達する、Pic Saint-Baudilleの山が見えてくる。

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Mas Julienの畑と、奥に見えるのはPic Saint-Baudilleの頂き

 カラカラしたLanguedocの大地において、そこだけ白い雪の残った、幻想的な山。麓に近づけば Terrasses du Larzacという、葡萄畑が辺り一面広がる場所にやってくる。BourgogneやBordeauxがそうであるように、この地には深い葡萄栽培の歴史が残っているのだ。この産地は、32村、500haに及ぶ地区を合わせた、AOC Languedocの一地区で、現在AOC昇格の申請を行なっている。実際、Languedoc中でも、歴史的に重要な産地であり、西暦782年に、この地にSaint Benoît d'Aniane(聖ブノワ)が修道院を数多く建設して、葡萄栽培の為の宗教的基盤を作り上げて以来、ワインの生産が盛んであった。この地には、Mas de Daumas Gassac, Grange de Père,Domaine de Montcalmèsなど、Languedocを代表する蒼々たる造り手がひしめいている。その中でも、私が古くから訪問したいとつねづね思っているワイナリーがあった。

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 Mas Julien。
 Languedocでも洗練された作風のワインを生む造り手で、Terrasses du Larzacの一つの村、Jonquièresに居を構えている。1985年、Olivier Julienは協同組合に葡萄を売っていた父親の畑の葡萄から、自ら瓶詰めをする決意を固めた。20歳でしかなかった彼が独立した折には、彼の周りでドメーヌを起こしていたは、AnianeのMas de Daumas Gassacのみ。それが今では20haもの畑を所有して、多くの星付きレストランにリストオンされる造り手として認知されるに至った。現在でこそ、Terrasses du Larzacには優秀な生産者が独自にワインを造ってはいるものの、彼はこの地における高品質ワイン生産のパイオニアであったのだ。

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      Olivier Julien氏と叔母のMarie Julienさん。彼女は主にデスクワークを担当。

 何よりもまず、L'état d'âme de Mas Julienというキュヴェには昔から愛着を覚えて来た。瑞々しくフルーティーで飲み易く、それでいて、熟成能力をそこそこもった、素晴らしいワイン。年ごとにエチケットの内容を変え、それぞれのラベルにはフランス語の詩文で飾られている。「L'état d'ameは セカンドワインではなくて、別個のワインと言えます」と、言われて、正にその通りであると首を縦に降った。ワインの完成度自体が高いからこそ、Bordeaux式「第二のワイン」ではない、違ったスタイルのワインとして独立した地位を占めている。そして、キュヴェ・Mas Julienは、CarignanとMourvédreに、Syrahをブレンドしたもの。若い内は非常に閉じた、長い長い熟成を可能にする、スケールの大きなワイン。古いヴィンテージものを昔から試飲しているが、その若さにはいつも驚かされる。そして2006年よりリリースした新しいキュヴェ・Carlan。今までのワインとは全く異なった土壌の、SyrahとGrenacheのブレンドで、爽やかでストレートな酸味と、鋭角な味わいをもった個性的なワインである。

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従兄弟のNicolas Julien。Masとは「家」を表す意味だから、Mas Julienは「ジュリアン家」という意味になる。そこには、家族経営のワイナリーという意味があるのだ。

 今回の訪問で、Olivierの従兄弟 Nicolasに主立った葡萄畑を案内してもらった。彼は昨年から働き始めたばかりだそうで、これが初めてのワイナリーにおける仕事だという。それでも葡萄畑についてよく精通していて、この造り手の将来を担う若者であるようだ。ワイナリーは、彼を含め5人で働いているという。その日は非常に快晴で、気持ちのいい空の下の訪問になった。こんなに畑仕事をするのに絶好の機会なのに、時間を裂いてもらうのに、少し恐縮な気持ちになった。そういえば、Languedocの他のワイナリーも、取材を申しでた人間にはとても親切であった。何もしなくてもワインが名前で売れる他の産地とは違い、この地方は、まだまだ認知の低い産地なのであるという雰囲気が感じられる。

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Jonquièresの畑。収量は28-30hl/haであるという。

最初に案内された Jonquière村の畑は標高100m足らずの場所で、なだらかな傾斜であるものの、ほとんど平らな見晴らしの良い立地。第四紀に堆積した粘土質石灰岩の土壌で、石ころが多く見られる。先日に訪問したCostières du Nîmesのテロワールとは、時代は近いはずだが、堆積している土壌の構成が根本的に違う。白ワインと、キュヴェMas JulienとL'état d'âme de Mas Julienのワインはこの地から生まれる。MourvédreとCarignanが主に植えられて、他の造り手と同じく、CarignanのみGoblet式剪定法で、他の品種はCordon式剪定法か、Gobletでワイヤーを張る。Carignan以外の品種は風に弱いからワイヤーを張るのであるが、それだけでなく、「仕事の効率化を上手く上げるため」でもある。ワイヤーで整枝することで、より効率的な機械化作業が可能になる。他にも機械で仮剪定を行なってから剪定するそうである。剪定がスムーズに行くので、私が訪問した二月中旬にはほとんどの剪定が終わっていた。

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      Jonquièresのテロワール。さまざまな種類の石灰岩が入り交じっている。

さて、白ワイン用には固有品種のCarignan Blancの他、Chenin Blancも植えている。Chenin BlancのようなLoire地方の品種がこの地にあるのは意外なのだが、実は他のLanguedocのワイナリーもしばしばこの品種を植えていることが多い。ブレンドされるChenin Blancは、ワインの味わいにおいて重要な酸味を与えてくれるという。こんな暑い産地でも上手く育つのかという問いには、全く問題ないとの回答であった。出自がどこであるかよりも、結果が大切なのであり、これからLanguedocにどんどん根付いて行く品種になるのであろう。

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Saint-Privatの畑。どこか、Toscanaのテロワールに似た印象のある場所である。

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 続いて車を走らせ、約20分、Pic Saint-Baudille山地の切り立った山道を横切り、山の向かい側のSaint-Privatの地にやってきた。Olivier Julienが、新たに購入した標高200-400mに位置する葡萄畑に達する。見晴らしの良い、その丘から広がる石ころ混じりの畑は美しく整理されている。標高の高い石灰岩の土壌であるが、植えられているのは、低地と同じくCarignan。それにしても、剪定が終わってないが、さすがにこれだけ離れた場所に畑があると、なかなか滅多に来られるものではないと思った。しかも、悪路の続く、山の中で、Nicolasの車が四駆であったにも関わらず、ヒヤヒヤさせられる山道であった。

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近年に白葡萄であるViognierを植えたそうだ。Languedocでは、沿岸部に比べ、内陸部の方が気温が低くなる。特に昼夜間の気温差は、沿岸部で11度しかないのに対し、内陸部では13-14度に及ぶ。夜間の冷たさが、ワインの味わいに繊細さと複雑さを与えるのである。


続いてもう一つの畑に移動すると、一面が赤銅色の畑が見いだされた。きめ細かい赤い砂の混じった砂岩、そして、同じく赤銅色のシスト土壌。「石灰土壌は、ワインに深みを、砂岩土壌はワインに酸味を与えてくれる。しかし、それをブレンドしても上手くは噛み合ない」為に、粘土質石灰の区画をMas Julienにブレンドする一方、砂岩とシスト土壌の畑のものを独立して使ったキュヴェCarlanをリリースした。Carlanの品種はSyrahとGrenacheのブレンドである。「Saint-Privatの畑は、標高400m級の高い地に位置するということもあって、熟するのが遅い。だから我々は主にSyrah品種を植えています」。なるほど、Côte Rôtieがそうであるように、Syrahにとって理想的な環境はシスト土壌であるとは容易に想像できる。赤銅色のシストは、太古の岩石で、Permien(ペルム紀)のものである。各世界のシストの崖がそうであるように、非常に切り立った急斜面の崖が続き、良質のワインの生まれえる、ある種の雰囲気がここにはある。Grenacheは、Jonquièresのような低地でこそ、暑すぎて育たなくなりつつあるが、このような高地であれば、よく育つのだという。だから、ワイナリー近くのGrenacheはだんだんと引き抜いているそうだ。Grenacheには暑すぎる、というのは中々興味深いが...。

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Syrahを植えられた場所。この辺りの区画の収穫はいつも遅くなる。「2011年は非常に変な年になりました。8月の後半に始まった収穫が、区画ごとに熟すスピードが非常に異なっていて、本当にいつどの区画を収穫するのか考えあぐねました。結局、終わったのは10月の後半でした。」

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      赤銅色のシスト。


帰り道は全く別のルートの西周りでJonquièresに戻ったのだが、辺り一面の景色はまったく先とは異なっていた。赤い砂に包まれた風景。Permien紀のシストと砂岩を含む赤土で、この地では"Ruffes"と呼ばれている。幻想的な赤い大地。表側の道が白い石ころ混じりだったのと打って変わったような風景に出会うと、この世界にはまだまだ色々な大地が広がっているのだと関心させられる。このように、ここTerrasses du Larzacは非常に複雑で入り組んだテロワールをもっている。全体的には、氷河期の時代に運ばれた、石灰岩や、シリカ質粘土の混じった土壌である。さらに場所によって、 Permien紀の砂岩、バサルト(Octon,Mérifons,Rabieux)、シスト(Saint-Jean-de-la-Blaquière)、第四紀の堆積土(Saint-Saturnin,Jonquière)、中新世の石灰砂岩(Saint-Guiraud,Giganc,Aniane)、赤土の石灰岩(Montpeyroux)が混じった複雑な様相を呈している。

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      Ruffes土壌の大地。私の友人はこれを火星のような光景だと云ったが、言い得て妙。


Dégustation en bouteilles

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すべての赤ワインはDemi-Muidsで一年、そのあと、Foudreで一年間のエレヴァージュ。白ワインもDemi-Muidsで一年寝かせた後、一端Cuveに移し、2-3ヶ月後の10月に瓶詰めする。白はMLFを行なわない。樽の上についているのは、自動的にウイヤージュできるシステム。これで、酸化をかなり抑えることができる。

Mas Julien Pays d'Hérault Blanc '11
とてもアロマティック。フローラルで純粋な香り。軽く樽香が香り、あくまでも優しい味わいを持っている。フレッシュかつボリュームがあり、素晴らしいバランス。このヴィンテージの白ワインには期待させられるものが多い。60%Carignan Blanc, 40%Chenin
Mas Julien Terrasses du Larzac Rouge '10
まだまだ閉じた印象。まだその美しさを存分には見せてくれない。Syrah的なアロマが強く、スミレ様のアロマティックな香り。タンニンは粗くなく、柔らかく、美しい。40%Carignan(平均樹齢50年),40%Mourvédre,20%Syrah。Carignanの柔らかさとSyrahのアロマ、Mourvédreのテクスチャーを上手く表現した、Languedoc屈指のGrand Vinである。
Mas Julien Terrasses du Larzac Carlan '10
香りは全く閉じこまった印象。Syrah,Grenache。Mas Rougeと違い、アロマの強さは身を潜め、ただ閉じこまっている。獣臭さ、鉄分を思わせる香り。香りは強い酸味に切れのある、Schiste的な味わい。柑橘的なニュアンスもほんのりと加わる。このキュヴェはまだ未完成であるが、将来性を感じさせるワインである。
Mas Julien Terrasses du Larzac Rouge '08
緻密。閉じているのだが、圧倒的なポテンシャルを放っている。味わいのバランス、エレガントさ、曇りなく、汚れなく、艶やか。タンニンは有るのにかなり柔らかい。デキャンタージュによって僅かな個性が開かれる。鉄分のアロマ、スミレ的な、レザー的な魅惑。

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「2010年は冷涼だったので偉大なヴィンテージになった。2011年は平均的な年だね。2012年は果実味があって、飲み易い年になりそうだ」

 私が、この造り手のワインを評価するのは、まず、そのワインのスタイルの明確さである。それぞれのワインが、はっきりと異なったスタイルを持ち、ワインごとの土地ごとの個性を鮮明に表現している。そしてどのワインもとてもエレガントである。繊細なワイン造りに必要不可欠な努力を続けている。2003年から選果台を導入し、葡萄は完全に除梗する。GrenacheやSyrahのように梗が強くて、除梗しにくい品種も、きっちりと梗を除く作業を徹底する。「葡萄についてるてんとう虫や葉を除く意味でも重要ですね」。さらに、「2008年ごろから抽出を抑えて、さらに柔らかいワインを作るように志向したので、Mas Julienの赤も昔よりも飲み易くなっているといえます」というように、より繊細なワインを作ろうという努力が絶えることがない。

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      ブレンド用のステンレスタンク。



総括

 どこの地方においても、話題にあがる造り手というのは、何かしら似たようなオーラを持っている。自分たちのワイン造りに対して強い信念を持っている。どんな産地にもこのような信念をもった造り手がいるものだ。彼らは、ワインというものをただ単に生活の糧としてではなく、アートとして捉えている節がある。勿論、栽培と醸造は、重労働であるにだけでなく、天候任せの辛い仕事である。収益を考えない農作業はありえない。しかしだからといって、金儲けだけをしたいのであれば、協同組合に葡萄を収めていれば良いだけの話である。何故、苦労してまで自分で瓶詰めして、自分のワインがジャーナリストや消費者にどのように判断されるかを一喜一憂しなければならないのか。以前、Champagneのある Récoltant Co-operateur(協同組合農家)を訪問したことがある。彼らの家は大変綺麗で、豪勢、裕福な一軒家に住んでいた。息子、孫ともに健康で、人生の残りを不安なく過ごしているように感じられた。ある一種の理想の生き方を過ごしているようだった。
 Olivier Julienは 28年前に自ら、葡萄を作り、ワインとして生成し、自分の名で瓶詰めする覚悟を決めた。生活の事を考えれば、協同組合に葡萄を売っていた父親の方が安定した人生だったのかもしれない。Languedocというマイナーな産地で、一から始めようと考える生産者は皆無だったのだ。土地に対する自信があまりにも希薄であるためである。ワインは、自然が我々のために贈ってくれる、大地のメッセージである。しかしながら、それをより良く、正しいカタチで生成するためには、「人」の力が必要である。テロワールをワインに表現する「人」の行為こそは、ある種のアートである。 蓋し、Languedocでも素晴らしい個性を持ったワインが作れるのだという、その信念をもった造り手が生まれない限り、大地のメッセージは決して表現されることはない。まさに Olivier Julienはこの見放された土地の価値を引き出した、最初の開拓者であった。彼の努力は、少しづつであるが、認められ、理解され、そして、この30年間で自分で瓶詰めする生産者がどんどん増えていった。それは、彼らパイオニアの発掘した Languedocの個性が世間に認知されるようになっていったためである。 Terrasses du Larzacというテロワールは、今でこそ、AOC Languedoc(Côteaux du Languedoc)の中の地区名でしかないが、将来的にAOCとして独立する間際にまできている。このような新たなる地方の価値の発見・保護である、AOCへの昇格という事象は、実に彼ら「人」の力のお陰なのである。

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      新しい植樹のためには、自分たちの畑でマッサル選抜した枝を使う。
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[ 2013/03/03 16:41 ] VR(Visit Report) | TB(0) | CM(0)

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