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Visit Report;33 Au Bon Climat


Au Bon Climat 「なんて、素晴らしい畑なんだろう!」

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 2004年のアメリカ映画『Sideways』で、主人公のMilesが愛して止まなかった Pinot Noir。しかし、アメリカ産の Pinot Noirには、Bourgogneで生まれる Pinot Noirのもつ神がかりとも言える、この品種のアロマは出ないと思っていた。10数年前に一斉を風靡したOregon地方やSonomaカウンティから生まれる Pinotのどれもが、果実味ばかり突出して、さらにアルコールの高すぎるワインばかりだったからだ。Pinot Noirの優美さは、力の強さではなく、その繊細さにあると言うのに...?
 南カリフォルニアは、19世紀においては、葡萄の中心産地であったものの、フィロキセラの被害の後、ほぼ壊滅してしまった。今日の、Los Angelesにはかつて栄えたという大葡萄農園の影もない(少量ながら生産する造り手はいるが)。しかしながら、南カリフォルニアは再び注目を浴びて来ているようにも感じる。北部に対して涼しく(ヨーロッパと逆)、より繊細な味わいを生むテロワールを持つと再評価されてきているのである。映画の舞台となったのは、南部の Santa Barbaraカウンティであったのも注目すべきである。Milesが魅せられたPinot Noirは、南部のPinot Noirだったのだ。
 美味しい Pinot Noirは南カリフォルニアにもあるのだろうか、という期待を込めて、私は Santa Maria Valleyのワイナリー、Au Bon Climatを訪れた。頭文字でABCという覚え易い、しかもフランス語のワイナリーである。
 
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 Au Bon Climatは、1982年にJim Clendenenによって設立されたワイナリーである。フランス語で、「素晴らしい立地の畑」を意味する。約40の生産者の900エイカー(約364ha)の畑から、Bourgogne系品種のみのワインを生産する。Pinot Noir、Chardonnay、Pinot Blanc、Aligoté をSanta Barbaraカウンティのみの葡萄から生産し、その大部分がSanta Maria Valleyに位置し、その中でも最も優れたテロワールと呼ばれている Bien Nacido vinyardの内、300ヘクタールを所有している。

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 造り手の風貌が、ワイナリーの性格を顕していることは多い。当主 Jim Clendenenに出会った時に、すぐさま、この人物ありて、カリフォルニアでも異色の Pinot Noirが生まれるのだとはっきりと合点がいった。70年代ヒッピー風の彼は、ヘアスタイルの所為か、ロワールの名醸造家、故Didier Dagueneauを思い出されてならなかった。ワイナリーに入ると、彼は我々のために手料理を準備しているところだった。巨大なステンレスタンクが所狭しと並べられた巨大な部屋の一画に、ごちゃごちゃと煩雑に架けられたポスターやらアンティーク用品、調理場があって、彼は一人、フライパンをぐつぐつさせている。その端には長テーブルが置かれていて、従業員全員分の食事を造っているのだ。アメリカの企業はファミリー感覚なんだろうか?結局、我々も一緒に昼を御馳走してもらうことになり、ワインの試飲は食事を共にしながら行われた。他国のワイナリー訪問ではこんな機会はないだろう。他にアメリカのワイナリーを訪問したことがないのだから知る術もないのだが、アメリカの訪問テイスティングとはこんな感じで始まるのだろうか?

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    調理中のその人こそ...

 Jimがワインに目覚めたのは、カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校を1976年に卒業した後、BourgogneとChampagneを廻ったことから。'78年には著名なZaca Mesa Wineryで働き、1982年に、Adam Tolmachと共に独立。Adamとは袂をわかったが、現在はQupé ワインのRobert N. Lindquistと共同でCLV(Clendenen Lindquist Vintners)という形で経営してもいる。Robertは主にビオディナミに焦点を置き、ワインはRhône系品種を植えている。

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Robert LindquistとJim Clendenen

「素晴らしい立地」のBien Nacidoの畑は、海岸沿いのエリア、Santa Maria Valleyの中でも、冷涼な気候で、日中は暑く、夜間は涼しいクリマを持つ。同じ冷涼な気候といっても、北カリフォルニアのPinot Noirの名産地のCarnerosとは全く逆で、夏は涼しく、冬は雨がちになる。さらに土壌は、火山性の土壌を地盤に、砂岩の層が広がる。Bien Nacidoの小高い丘には石灰岩に似た白い岩石が見られるが、似て非なるものであるという。「ヨーロッパのように古い時代に堆積した岩石ではなくて、比較的若い時代に堆積した砂と石が固まったものなんだ。でも石灰岩ではないけれども、堆積物を多く含んでいてミネラルに富んでいるんだよ」とのことで、更にその上には、河から流されて来た砂利や石ころが混じった流土質土壌を形成した。

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    Bien Nacido。丘地でも、所々、牛のための牧草地や、アボガドの畑が混じっている

 彼らは、Bien Nacidoの買い付け葡萄からのみでワインを造ることには飽き足らず、1998年には自分の畑を購入して、2001年からそこの畑のものもブレンドされるようになった。Le Bon Climatと名付けられたこの畑は、Bien Nacidoの畑から6km南の地点にあり、Pinot Noir、Aligoté、Pinot Blanc、Gewûrztraminerなどを植える事になった。樹間1m x 列間2mの1haにつき5000樹(1エイカーの1600樹)植えられて、なかなか急なスロープに畑が造られる。畑を案内してくれた醸造チーフのJim Adelmanによると、平地は肥沃すぎてワイン用葡萄には向かず、表土の浅い丘地にこそ品質の高い葡萄がとれるのだそうだ。実際に、30年前に彼らがワイナリーを起こした頃には、辺り一帯が葡萄畑であったが、今では平地の葡萄は引き抜かれ、替わりにカリフラワーが植えられているという。アメリカの優良テロワールの探索は今も休まずに続いているのだと理解できる。彼らの念願もあって、2003年より有機栽培の畑との認定も受けた。

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    Le Bon Climat。Pinot Noirのクローンは677,777,Pommardなどで、台木は樹勢を抑えるRipariaを使用。剪定法は収量を抑え易いDouble Cordon

 Le Bon Climatを探索していると、丘の下部の樹が沢山の植え替えられているのに気付く。聞けば、虫の害によって樹が枯れたためだという。Pierce's disease(ピアス病)という病気の為である。Grassy-winged sharpshooterという名の昆虫が、樹を齧ることによって、体内に持つヴァクテリアが感染し、その樹が死にいたるという今日のアメリカの葡萄畑が抱える恐るべき病害であった。しかも、この病気は、Bourgogne系品種が最も弱いとされているそうだ。虫の飛行距離が重要とされ、なるほど、川に近い平地部分の樹がほとんど植え替えられているのに対し、丘の上部の被害はない。その替わり、年間降水量が500mm程度と低いために、ヨーロッパのような湿度の高い地方で発生するベト病の害は少ないそうだ(ウドンコ病の害は少しある)。他にも、Leaf roll(ミーリーバグ)と呼ばれるウィルス性の病気や、更にはフィロキセラの危険も常に存在しているとのことであった。

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丘の下部、ピアス病の被害によって植え替えを余儀なくされた畑。


 涼しい土壌とは言え、土壌の排水性から、旱魃の危険は常にともなう。だから葡萄畑にはドリップ・イリゲーション用のホースが張り巡らされていた。訪問した当時は、雨が降っていたにも関わらず、周りのカリフラワー畑にも放水されていたのが印象的だった。

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    プレス機は空気圧式のようだ

 醸造は、Bourgogneにインスピレーションを得たものが多いといえる。除梗しない発酵を理想とし、完梗葡萄は大体、20%位使用するそうだ。さらに開放式タンクで発酵、野生酵母のみ使用する。補糖、補酸は極力控え、「2001年から、補糖、補酸、補水をやめた」そうだ。樽会社もBourgogne製で、François frère社のもののみを使用(時々、ermitageやtarransaultも使うが)。樽の木材は3年間自然乾燥させたものを好み、「短すぎても、長すぎてもいけない」、との事。エージング期間は長めである。ものによっては3年間、小樽熟成などを行ったりもする。澱引きは瓶詰め前に一回のみで、やはり亜硫酸をあまり添加したくないという姿勢を見いだせる。清澄に使うのは、卵白で、これが最もベストだとの判断だが、フィルター掛けは、価格の低いキュヴェしか行わないそう。このように、ワイン造りにおいて、極力、人為を廃しようと努力しているワイン製造法が理解しうる。どこの世界でも、良いワインは良い葡萄から、という鉄則が浸透してきたように思える。それは良い料理は良い食材から、というガストロノミーの流れの転換と期を同じくしているように感じるのだ。


試飲;

'11 barel simple

ABC Aligoté ; とてもフレッシュ。樽香をほとんど感じない、巧い醸造。ボディの強い、重いAligoté。
ABC(JC) Tokai Friurano : 品種の個性がとても顕されている。品性のあるボディ。エレガント。少しアルコールが強い。
ABC PN Sanford & benedict vinyard; とてもフレッシュで、フルーティー。アタック優しく、きめ細かい。10%完梗。
ABC PN Bien Nacido vinyard; 赤果実の柔らかさ、フレッシュな酸味。Sancerre に似る。
ABC PN Talley Vinyard; より複雑で、アロマティック。黒果実、皮のニュアンス。Gevrey的なアロマ。タニックである。
Qupé Syrah ; 典型的なSyrahのアロマ。スパイス、黒胡椒。フランスのそれよりもプラスのスパイシーさが加わった印象。口当たり柔らかい。
Qupé tempranillo ; 深いマチエール、 シナモン、刺々しいスパイスではない。ビオゆえのソフトな口当たり。


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Tasting white

Jim Clendenen Aligoté '10 : フレッシュでおちついたアロマ。バランスが良い。
Santa Maria Valley Hildegard '09 ; ソリッドでしっかりとしたボディ、深さ。樽香はやや強めについた印象。逞しいワイン。PG55%,PB40%,Aligoté5%
Santa Maria Valley Hildegard '05 ; 若々しさは減ったものの、鍛えた筋肉は衰えない、といった印象。少し酸化的なアロマが強くなっているが、持ち前の気迫で保っている。
Chardonnay Nuits Blanche 30 anniversary '10; 30周年記念ボトル。ワイルドで、樽香が強い(つきすぎではない)。スパイス感とミネラルが混じっているがギスギスしているわけではない。
Chardonnay Nuits Blanche our way '04 : やや頂点を越えて、ゆるやかなスロープに入った感じを受ける。重くリッチ。


Tasting Red

Qupé Grenache '10 : Grenacheのアニマルフレーヴァーよりも、果実味が強いタイプ。しかし、腰の重さはなく、柔らかい。
Qupé Syrah '08: スパイシー、'11よりは落ち着いた印象。品種一つ一つの個性がとても出ていて興味深い。
Jim Clendenen Nebbiolo : '04 ; 青いこの品種特有の個性。イタリアのそれに比べると深みに欠くが、タンニンは強い。
Jim Clendenen Petit Verdot '06 ; ニュートラルな味わい、丸みがあってボリュームはそこそこ。「この地でCabernetとMerlotを植えても上手く熟さなくて、ピーマンっぽくなったりタンニンが粗くなってよくない。しかしながら、Petit Verdotは良い熟成をしてくれるんだ」

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PN Isabelle'10; エレガントな果実味。きめ細かさ。Gevreyの一級は斯くやと、思わせるアロマ。口当たりのアタックはやや強い。この娘の名前を冠したキュヴェは、全体のワイナリーの中でも最上の葡萄のものをブレンド。凝縮したヴィンテージ。
PN Isabelle '09; '10よりもより、熟成した印象で、落ち葉、紅茶のニュアンスが強くなる。IsabelleのほうがKnoxよりも丸い。
PN Knox'05 ; 閉じこまっている。しかしアロマには強い複雑性があり、熟成によって伸びるだろう。
PN Sanford&benedict '93 ; 空けた当初は少し抜けた印象だったが、時間とともに持ち直した。Fragileな個性。Terreuxで、円熟を過ぎた初老のワイン。とても落ち着いた。枯れたものの美しさ。Jimがワインに籠めた、恐らく、Bourgogneワインに魅せられた、夢がこのワインには詰まっている。この畑は、Jimによると、「カリフォルニアで最も冷涼なテロワール」

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 ワインの味わいは、非常に繊細さを重視している点に尽きる。アルコリックで、果実が出過ぎている他のカリフォルニアの造り手のワインとの印象は少なく、ソフトで優しいタッチが見て取れる。得に2009年は、涼しい気候のキャラクターが良く出ていて、世のBourgogneファンをも納得させる品質であると言える。Jim自身が単にBourgogne好きであるからこそ、こういうワインが生まれるわけではなく、このSanta Maria Valleyというテロワールが、このワインの繊細を生み出しているのだ。しかしながら、それはまた、Jimがこの場所で醸造をしようと決めた理由にもなるわけであり...。まさしく、かの地こそ、Jimにとっての理想の地、Bon Climatだったわけである。



まとめ、

 18世紀に南カリフォルニアから始まり、ワイン造りが中心であった南部から北部へとワイン造りは移行したのは、ただ単にLos Angelesに人口が集中したことが問題だったのではないのだろう。ピアス病の原因となる虫、Grassy Winged sharpshooterは、南部カリフォルニアに多いという。こういった虫の棲息する場所であったことも理由であったのだろう。そのピアス病の感染地帯ぎりぎりに面する Santa Barbara カウンティは、言うならばカリフォルニア最南部のワイン生産地でもある。そして我々は、常に葡萄が育つか、育たないかギリギリの環境でこそ、最高品質のワインが生まれるということを学習してきている。極限の環境下で生まれるワインだからこそ、彼の Pinot Noirは、あのフランスでしか出し得ないと感じていた、ミネラルの響きをワインの中に宿すのだろうか。カリフォルニアは、もはやニューワールドではなく、歴史を持った産地になりつつある、と感じた訪問だった。

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    他のワイナリーのPinot Blancで貴腐を残している。Qupéでも年によってはViognierの遅摘みワインを造る事があるそうだ

Au Bon Climat
P.O. Box 113
Los Olivos, CA 93441
Tel: (805) 937-9801
Fax: (805) 937-2539
Email: info@aubonclimat.com

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Bien Nacidoの畑
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[ 2012/12/11 01:52 ] VR(Visit Report) | TB(0) | CM(0)

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