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Visit Report;28 Domaine Audrey & Christian Binner

「人の一生こそが、Oxdation(酸化)みたいなものだろう。Réduction(還元)こそが死だ」Christian Binner

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酸化香。
何かギョッとさせられる、ツンとした匂い
時間のたって変質したリンゴや梨が発するような香りと言えば、わかりやすいだろうか

どんな食品も、酸化することによって変質していく
特にワインは急激な酸化によって、味わいが落ちる

そして、強すぎる酸化香が意味嫌われるのはよく理解できる
ワインのアロマを根こそぎ消し去り、さらに醸造過程の香りをマスクしてしまう
酸化反応によって、特殊な酵母やヴァクテリアが増殖しやすくもなる

しかし、酸化なくして偉大なワインは生まれない
ワインの香りが安定して薫るのは、醸造の過程で、適度な酸化を施されたからである
Bordeauxワインが時間をかけてゆっくりとその味わいを変化させていき、数十年後に素晴らしい変身を遂げるのは、酸化による熟成あってこそである

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Binnerのカーヴにあるワインのボトル。蒼々たる「自然派」ワインのコレクション

Christian Binnerこそ、Alsaceでも賛否両論の極端な造り手はいないだろう
Jean-Michel DeissやOlivier Humbrechtはかつて批判のまとに晒されたとはいえ、今ではAlsaceを代表する英雄扱いと言える
それに比べると、Christian Binnerの立場は微妙だ
あれほど有機農法に特化していながら、Franceの中心の雑誌からは無視されている様子だ
その原因は、この造り手の徹底した、SO2削減に起因する

SO2(Dioxyde de Soufre)、二酸化硫黄もしくは亜硫酸と呼ばれるこの化学薬品を使うことは、酸化を防ぐために最も有効な方法である
ワインだけではなく、いかなる食材にも使用されている
ヨーロッパにおいて、ワイン用に使えるSO2の量は150mg/l(赤ワイン)、200mg/l(白ワイン)となっている

しかし、これほど有効な化学薬品も、より「自然な」ワインを造ろうと望む造り手たちにとっては、招かれざる「人為」の混入に他ならない

Binnerは自然なワインを造ることを望むあまり、SO2をまったく入れない方法を常に模索している
だから彼のワインはしばしば、「酸化」している
しかし、いわゆる時を経て緩やかに「酸化」して劣化したSO2添加ワインや、Bourgogneでしばしば問題になっている「Oxidation prés-maturé(熟成以前酸化劣化)」の味わいとは異なる
特殊な「酸化」が進んだ、Vin jauneやXérès、そしてさらにはChampagneの新しいドグマ・Jacques Selosseのワインと同次元の「酸化」であると言える
彼のワインは有機ワインを扱うParisのショップでは根強い人気があり、Bio系にしてParis最大のワイン・ショップLaviniaにもその名を連ねている

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BinnerはColmarの北約5kmに位置するAmmerschwihr村に11haの畑を持つ造り手である
家族経営の造り手で、Christianと妻のAudreyの他、従業員は2人、さらに引退したとはいえ、まだまだ元気な父親のJosephも畑仕事を手伝っている

Ammerschwihr村は非常に醸造家が多い
古くからワインの品質で名声を博してきただけあって、家族経営の小規模な造り手がなんと60軒存在する
ワイン生産地として非常に重要な村にも関わらず、長くGrand Cruは存在しなかった
しかし2005年の特級法改正によって、第51番目の特級畑としてKaefferkopfが認定された
「Kaefferkopfは昔から偉大な畑であるといわれていた。しかし、あまりにも著名すぎるからわざわざ特級を名乗る必要もない、という理由で、特級法成立の1975年当時に申請されなかった」とChristianは言う
あまりにも大雑把というか、Alsaceの特級法の不整備を物語る逸話ではある
しかも、2007年からKaefferkopfは葡萄の混植が認可されている(Alsaceの特級で混植が認可されているのはAltenberg de Bergheimとここの二つのみ)

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   Kaefferkopf(黄金虫の山)

「Alsaceの不運は、先の大戦の爪痕を引きずってしまったことにある。フランス領とドイツ領に何度も入れ替わったことで、法律はころころと変えられてしまった。ドイツ人はプロテスタントが多く、彼らは、土地の線引き関しては融通がきかない。混植されていた畑も、そうした時代に引き抜かれたりしたんだ」

Domaine Binnerのワインは、Riesling(34%),Pinot Noir(18%),Pinot Gris(17%),Muscat(14%),Gewurztraminer(13%),Auxerrois(4%)の比率で植えられ、畑は、Ammerschwihr,Katzenthal,Kaysersbergにまたがる11haの畑を所有する
「自然派」の造り手であるから、もちろん、有機農法を実践している
ECOCERTからビオディナミの認定も受けている

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   Cordon

彼の畑の管理方法で特筆に値するのが、Cordon法(枝をアーチ状にするタイプ)を用いていることである
Alsaceではかなり稀な剪定方法で(他の造り手はほとんどGuyot Double)、それぞれの樹に短哨(芽は約5つ)を8つ残す
こうすることで、Guyot剪定の各枝に回る樹液の不安定さは回避され、さらに素早い剪定が可能になるために、剪定時期を限りなく遅く(理想的な3月)できるという
ただし、Gewurztraminerはこの剪定法は使われない。というのは、この品種は、3つ目以降の芽からしか実がならない品種だからである

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   手前、Kaefferkopf・後方、Schlossberg

今年の一月はとても温暖だった
時折枝からSève(樹液)が出るという話をすると、Sèveが上がったり下がったりすることは良い事なのだが、それが急激すぎると良くないと言う
急激なSèveの移動は霜が降った折に、枝の破損を招くという

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コンクリート・タンク。「ステンレスタンクは嫌い」だそうだ。しかし「発酵用・ブレンド用に何基かは保有」しているとのこと

コンクリート・タンクと大樽のみを醸造に使う
ステンレス・タンクの嫌気的な要素は好まず、緩やかな酸化を促す、コンクリート・タンクが使いやすいという
しかもそれを用いることで、シュール・リー熟成を行いやすくするという
さて、このDomaineのコンクリート・タンクと大樽で特筆すべきことが、自動にOuillageを行えるようにするガラスの容器を取り付けていることである
これのお陰で、常にタンクと大樽内はワインに満たされることになり、より酸化を遮断することができる
さらに洗浄に便利で、ヴァクテリアの発生を抑えるのにも役立つ
もちろん、「酸化」を好むとは言え、酸敗するのを黙って見逃そうと言うわけではないのだ
亜硫酸を無添加する造り手が、エレヴァージュ中に常に気にしなければならないことは、酸化を抑えるということである

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   自動Ouillage用機器。人手が余りかからないばかりか、常にタンク内に液面が満杯になっているという利点がある


カーヴの地下から井戸水をくみ上げて使用するのもユニークだ(もしかしたらAlsaceでは多くの造り手が井戸水をくみ上げているかもしれないが)
井戸水は洗浄用、飲料用など色々な用途に使用する
ただし、石灰のカルシウムに富みすぎるので、ビオディナミのプレパラートを造る際にはこの水は使用しないとのことである


ー 試飲

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Christian Binner。「亜硫酸を入れないから瓶詰めした後も、ワインの中の微生物・ヴァクテリアは生きている。それが味わいに滑らかさを与えてくれるんだよ」
のっけからとんでもないことを言う人ではある


酸化系のワインの味わいは強烈な風味をもっている
SO2が全くないか、少ないため、酵母やヴァクテリアの風味も強く残っている
ボトル差が激しいのも特徴である
しかし酸化に慣れて造られたワインだから、抜栓してから数日間、問題なく、味わうことができる

「亜硫酸を加えないことは、ワイン自体の酸化に対するある種の耐性を与えるんだ。もとから少し酸化していることで、抜栓してからでも長い事置いておくことができる。しかし、亜硫酸を加えた後のワインは抜栓すると激しい酸素に晒されることに耐えられなくて、すぐに劣化が始まる。その香りが続いているのは、保って2日ぐらいだろう」
「ワインの醸造は子供の教育と同じだ。甘やかせば、何もできないワインになり、厳しくしてやれば、強いワインになる」


Hinterburg Auxerrois '08 14%: シードル香。Pinot Grisのような、赤リンゴの香り。石けん水のようなアロマ(花崗岩らしい)。亜硫酸無添加からくる、酸化系の香り。アロマの強さに反して、味わいは抜けている。単調さは、テロワールの欠如からくる、とChristianは言う。Hinterburgは「裏山」を意味し、Sommerbergの裏に位置する

Riesling '09 12.5%: Ammerschwihrのテロワール。花崗岩の欠片の多い、堆積土壌。とてもフルーティー。SO2の無添加による、ゆるやかな酸化香。「酸化的な香りであって、いわゆる酸化して飲めないワインとは違う」XélèsやVin Jauneと同列に置かれるようなワインである。

GC Schlossberg Riesling '04 14%: 畑はSchlossbergの真ん中部分。オイリーかつ、繊細なライムの香り。蜂蜜っぽさが出るのが、酸化的な印象を強めている。とても伸びがあって、繊細。「品種よりも土地の個性をワインに残したい」

GC Kaefferkopf Riesling '05 14.5%; 非常に熟している。エキゾチックで、アプリコットのような香り。とてもスパイシーな印象が残る。口の中に心地よい苦味が残る。「Kaefferkopfは常に香辛料の香りがするんだよ」複雑なこのテロワールの中でも彼のパーセルは砂岩石灰が多い。

GC Kaefferkopf '08 13.5%: 特級に昇格したことにより、複数の品種のブレンドが可能になった。Gewürztraminerが多いという。かなりスパイス感が強くなり、複雑味がでている。とても強く、頑健。「Gewürztraminerは好みではない」と言うが、とても良く出来ている。

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Pinot Noir '09; Ammerschwihrの黄土の多い土壌。除梗していない新鮮な果実味。黒果実、特にプルーンのアロマ。ヴァニラ香っぽさもある。味わいは至って軽やか。

Pinot Noir cuvée Beatrice '08; Kaefferkopfのすぐ下部にある畑。とても弾ける様な果実味がある。黒果実、黒い花。素晴らしい香りは、Prieure-Rochのそれに近い。味わいは柔らかく、心地よい。

Hinterburg Muscat '05; 60% Muscat Ottonel,40% Muscat d'Alsace。新鮮な柑橘類の皮のニュアンス、ライム。優しく、柔らかい。とても上品。果実に負けない繊細さを持ったMuscatは珍しく、高貴さを感じる。

Pinot Gris '08; 非常に酸化香が強い。胡桃の香りが、Jura地方のワインのイメージと重なる。

Pinot Gris cuvée Beatrice'98; 本人は嫌いだというこのワインは亜硫酸添加もの。なんというか正に「普通の」ワインである。胡桃っぽさもあるものの、品種由来のキノコの香りがでて、トロリとした触感。ただし、いままで亜硫酸無添加もののワインを飲んだ矢先にこれを飲むと、かなり異物が混入された印象が残るということも理解できる。

Gewürztraminer cuvée Beatrice '08: 黄土土壌。とてもトロピカルな果実味。柑橘類の皮が良く熟したような印象。スパイスと蜂蜜香。

Riesling VT '98: Ammerschwihr。やや苦味。キャラメルのような味わい。

Hinterburg Muscat VT '02: 水から取り出したレモン。ミネラルウォーターのような穏やかな硬質感。繊細なミントの葉。とてもキレイで、純な液体。

Blanc de Noir VT '07: Pinot Noirの甘口。サクランボ、ボンボン、シャーベット。蜂蜜のような香りも加わる。

Kaefferkopf Muscat SGN '01: オレンジの葉。綺麗な緑色のミント。とても繊細な味。糖分は高すぎない。無重力感を感じさせる驚異的なバランス。知りうる限り最高のMuscat。

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「昔のRieslingは潜在アルコールが12%でも完熟していた。でも今のRieslingは、14%にまで達しないと熟さない。葡萄自体が変化したのではないか」





ー 総括


「ワイン・ラボラトリーで100点満点採れるようなワインには興味はない。そんなワインは大変良く出来ていても、人を引きつける色気に欠くからだ」

彼の言葉は、物事の論理をすべて否定できるような魔術的な力を秘めている
哲学書を紐解いた時に、すべての価値観が反転する、あの感覚と同じだ
彼の言葉は、ソクラテスやガリレオ・ガリレイのような一般常識を無効化しうるインパクトを備えている

素直にOuiとは言えなくても、決してNonとは良い切れ得ない、ワインに対する「真実」を彼は知っている
一般の造り手、つまり教科書に書かれた事を実践する造り手が、決して理解することが可能な範疇の枠外の「真実」を彼は理解している
教科書を参照して、越えられない現実の壁にぶち当った時に、彼はいとも簡単にその壁を越える違う道を提示する

彼のワインに対する無理解とは裏腹に、彼のワインにしか見いだし得ない、「真実」の味わい

「Montrachet より美味しくない、だなんて、どうして言えるんだい?」
彼のワインを飲むときにいつも、そう囁きかけられているような気がしてならない


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          Christianと奥さんのAudreyさん


【参照】
Le Rouge & le Blanc N°78 2005
http://www.inao.gouv.fr/public/produits/showTexte.php?ID_TEXTE_CONSOLIDE=992
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[ 2011/04/16 05:24 ] VR(Visit Report) | TB(0) | CM(4)

Pinot Noir 2010

Pinot Noir2010を1本飲みながら読ませていただきました。
コルマールはパリに勤務していた1995年に訪れ、ボジョレーの時期だったのでこのあたりのワイナリーの祭りに参加した思い出があります。
藤沢ロックス・フォールで購入したこのワインは完璧な保存状態で、このblogと合間ってすごく気のちの良い時間を過ごせました。ありがとうございます。
[ 2012/06/17 19:39 ] [ 編集 ]

Re: Pinot Noir 2010

こんにちは、渡邊様

コメントありがとうございます。
そうですか、1995年にアルザスにいらっしゃったのですね。
1995年の甘口はとても美味しいですね、探してみられては如何でしょう?
それと、AlsaceのPinot Noir2010は、とても繊細なスタイルで、私も大好きです。

最近どたばたと忙しく、ブログの更新が大幅に滞っているのですが、少しづつ続けていたいと思っていますので、お楽しみにしてください!

[ 2012/06/17 19:55 ] [ 編集 ]

素敵なblog記事をありがとうございます

B.S.さん、はじめまして。

奇遇なことに、私もPinot Noir (beatrice) 2010を呑みながら記事を拝見しました。総括の部分を読み、頷きながら、いっそう美味しくワインをいただけました。素敵な記事をありがとうございます。

次回はザコルのワインを呑みながら、その他の記事を拝見させていただきます。
[ 2013/04/21 00:12 ] [ 編集 ]

こんにちは

メッセージ、ありがとうございます!
専門的なブログですが、お喜びいただけて、幸いです。
こういったメッセージ、励みになります。

これからも、少しづつ書き続けますので、お楽しみにしてください!
[ 2013/04/22 19:26 ] [ 編集 ]

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