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開花 ~ワイン醸造の現場から その4~

Bourgogneのブドウの開花(2010年6月)


花が咲く。

               Fleur Chassagne


なぜ、「花」が咲くのか。
今までずっと、「花」というものが存在する意味を知らなかった。
観賞用としての「花」は後付け的なものであって、それ自体は別の用途して存在する。

つまるところ、植物が「花」を生む目的は、種をつくるためである。
花の雄しべと雌しべが受精して、果実が生まれる。
その果実の中に安置された種は、運がよければ芽をつけ新しい個体として繁殖する。
しばしば植物は、新しい種の繁栄能力を高めるために、色々な遺伝子を収集したいと望む。
自分から動く事のできない植物は他の動物を媒介として花粉を拡散したいと望む。
そして、媒介者をなるべく多く惹き付けるために、植物は香り高く、色調豊かな、「花」を生むのである。
それまで全く特に目立った姿形を見せたわけでもない植物が、最も美しく輝く瞬間。
深い彩りと、目映い匂い。

   Nouaison.jpg
   雄しべと雌しべが結実(Nouaison)して、実が生まれる。

ブドウの花はあまり特に有名でもないし、目立ったものでもない。
しかし、スクスクと育ったブドウの樹は、5-6月のある晴れた日に「花」を咲かせる。
花が咲いて、結実するまでの一瞬の間は、Bourgogne中がブドウの花の香りに包まれる。

ブドウの開花(Floraison)は、ワイン生産の中で最も重要な出来事の一つである。
一般的に、開花が始まった日から数えて100日目が収穫の日の目安となる。
つまり、開花後のブドウの生育状態が、ワインの成熟度を左右するということである。

開花時のブドウの状態は不安定であり、最もデリケートな期間である。
開花中の天候が、ブドウの実の受粉条件を変えるからだ。
ブドウの結実(Nouaison)が上手くいかないと、結実不良(Coulure)になったり、種無し(Millerandage)になったりする。
最も、Millerandageはブドウの凝集感が上がるので、少し混じる程度ならば、歓迎される傾向にあるが。
しかしながら、この時期に雹でも降ろう物ならば、その年の収穫の何割かを断念しなくてはならなくなる。
だから醸造家達にとってとてもストレスのかかる時期である。


   BunP.jpg
   この連載で常に追っているChambolle-Musignyの畑の開花。

BIVB(Bureau interprofessionnel des Vins de Bourgogne、ブルゴーニュワイン事務局)の出している報告書によると、2004年の開花日は、6月13日(Côte de Nuits,PInot Noir,Côte de Beaune,Pinot Noir)、6月10日(Côte de Beaune,Chardonnay)。同じく2007年は、5月24日(Côte de Nuits,PInot Noir)5月22日(Côte de Beaune,Pinot Noir)5月19日(Côte de Beaune,Chardonnay)。2008年は、6月15日(Côte de Nuits,PInot Noir)、6月14日(Côte de Beaune,Pinot Noir)、6月11日(Côte de Beaune,Chardonnay)。2009年は、5月31日(Côte de Beaune,Pinot Noir)、5月28日(Côte de Beaune,Chardonnay)。

地球温暖化が囁かれる今日、開花日はどんどん早くなる傾向にある。
例えば上記の2007年を見てみると、それが確認できる。4月の天候がとても良かったので、成長は非常に早くなり、収穫は8月に始まった。あの猛暑の2003年に続くスピードである。
開花時の天候も重要で、開花が早く完了したのか、それとも長引いたのかが、とても重要である。
この時期の天候が不安定だと、開花する畑がまばらになり、収穫期の熟度もバラバラになるということだ。

   BunP2.jpg
   先の畑の結実の様子。黒ずんだ実は、結実不良である。結実不良が多いと、房の量は減る。

さて、畑を観察していて、気づいたこと。
ブドウの開花、同じ樹でも、地面に近いものから始まる。樹の先端から発芽する時と少し勝手が違うのだろうか。
下の方の実からどんどん、花が咲き、段々上にまで達して行く。

そして、刈られずに生き残ったアメリカ台木の花もとても早く咲く。これらは、2-3週間くらい他の品種よりも早い計算だ。
これは、死にものぐるいで、生きたいと望む、防衛反応なのか、それとも、そもそも台木の品種は成長が早いのか。もしくは、やはり根に近いと早いのか。

我が、Domaine Laurentで最初の開花を発見したのは、6月7日月曜であった。それはGevrey-ChambertinにあるAOC Bourgogneの畑だったので、そこよりも生長の早い特級などではすでに開花が始まっていただろう。
ただし開花といっても、ほんの少し花が開いた実があっただけなので、この日をもって開花日とは言えない。
平均してみると、6月11日位(Côte de Nuits)になるので、そこから100日後とすると、9月19日位が今年の収穫開始予想日となる。

ということは、例年よりやや遅れ気味である。
これは、4月後半の天候が非常に冷涼だったことにより、もしかしたら12-2月の厳しい寒さも影響しているのかもしれない。
最も、Côte de Nuitsの畑は25年降りの、冬の霜害を受けたため、開花状況はさらに混乱していると言える。

               P1070674 WIRE
               ワイヤーに沿って固定された畑。

開花と並行して、我々が行っている作業は、小枝をワイヤーの間に固定する作業である(Relevage)。
発芽以降、小枝はどんどん伸びる。天に向かって一心不乱に伸びる様は、樹が無機的に見えるのにたいして対照的に、非常に有機的である。
闇雲に伸びるブドウの樹を正しい形に整えつつ、引き続き芽掻き(エブルジョナージュ)を続ける。
Baguette(冬期剪定の時に残した一年前の枝)に残った小枝の数を適切な数に調整したりもし、これは小枝の間の通気性を高める目的もある。
ワイヤーに固定し、Guyot Simpleの剪定法で、うまく整えられた畑は、見た目にも非常に美しい。
職人芸が発揮される。機能美と造形美が一致する瞬間といえる。

               Porte Greffe
               打ち捨てられたブドウ畑にて見つけた、アメリカ台木の咲かせる花。

さてさて、あと100日間。これからのブドウの成長が楽しみである。
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[ 2018/06/21 23:18 ] 栽培 | TB(0) | CM(0)