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剪定 ~ブドウ栽培の現場から その1~


 2018年になって、もはや一ヶ月たった。時が経つのは早いものである。
 他のワインウェブに投稿したりしたこともあって、自身のブログ更新がおぼつかない。もう一年半の間、何も書いてない。
 ただ古いサイトを整理していると、BourgogneのDomaine Laurent père & filsで働いていた昔の記事が出て来た。

 ワインの情報や、アペラシオン法、病害などの変化はあっても、葡萄畑の現場で行われる仕事はそうは変わらないはずだ。
 そこで今回は、今年の葡萄畑の仕事をなぞるタイミングで、この古い記事に少し手を加えて掘り起こしてみようと思った。

  Cold Field


Bourgogneの剪定作業(2010年1月-3月)

 ブドウは他の植物と同じで、ほったらかしにしておいても勝手に生長する。上へ上へ、陽光をもとめて、何かにからまって登っていこうとする。全く何もしないで放っておくと枝や葉が伸び放題になってしまう。そうなるとブドウの実の養分は、枝や根、葉にとられてしまう。ブドウの実に与えられる養分が少ないと、そこから出来るワインの味も良くはならない。良いブドウを作るために、よりよく養分を実に集める為には、人が手入れをしなければならない。そういう意味において、ワインはナチュラルな飲み物とは言えない。「ナチュラル・ワイン」という表現を私が好まないのはそういう事を念頭においているからだ。それは、育児をする時に、赤ん坊に服を着せたり、離乳食を与えるかのようなものだ。栽培家に丹念に仕上げられたブドウが、醸造家によってより良いワインへと昇華される。

 冬の仕事の基本的作業は、ブドウの枝を剪定することである。無駄な競合をすることを避けるように、一つ一つ、枝を選んで切る。間違った剪定をすると、枝やそこから伸びる葉、実、蔓などが、お互いに邪魔しあって、光合成を妨げたり、病原菌の住処を造ってしまう。ブドウの樹勢に合わせ、最も適した枝を数本と、芽を幾つか選び、それ以外はすべて除去する。樹勢とは、樹が生長するためのエネルギーのことで、生命力の強さの顕われである。品種ごと、クローンごとに樹勢が違い、それが強ければ、樹にはより多くの葉が生まれ、枝が強くなり、ブドウの実も多く育つ。強すぎても、弱すぎても良くない。剪定の目的は、樹の持つ樹勢をよりブドウの実に導き、味わいの質を高める努力をすることである。ワイン造りに当たって、この剪定という作業ほど熟練を要する仕事はない。何故ならば、その場で選ばれた枝は、その年の収穫量、品質に影響するばかりか、二~五年後のブドウの状態にまで影響を与えるからだ。そして、間違って枝を切ってしまおうものならば、ブドウ自体を殺してしまいかねない。剪定とは、ワイン造りに置いて最も職人芸の要する作業である。

 Côte d’Orの剪定スタイルは基本的に Guyot Simple(ギュイヨ・サンプル)と呼ばれるものである。造り手によってはCordon de Royat(コルドン・ド・ロワイヤ)やLyre(リール)と呼ばれる違う性質の剪定方法を行う所もあるが、このGuyot Simpleが最も一般的である。この剪定方法は、短哨の枝と長哨の枝を一本ずつ残す方法で、Coursonと呼ばれる短哨に芽を2つ、Baguetteと呼ばれる長哨に芽を5~8つ残す。明くる年の収穫の際には、前年のCoursonの下の枝をその年のCoursonに、上の枝をBaguetteにするということを繰り返していく。一つのBaguetteの芽の数を少なく残した方が、個々の樹勢の配分が多くなり、良いブドウの実ができる可能性が強くなる。しかし、少なくしすぎた芽が病気に冒され、死に絶えては元も子もない。収穫による利益も考慮して、よりよく伸びるであろう芽を選ばなければならない。樹勢にもよるが、この剪定方法だと、収穫量が低く抑えられる。品質重視の剪定方法と言える。

             avant.jpg
 剪定前の状態。Baguette(長梢)にSarment(枝)が1から4まで、Courson(短哨)に SarmentがA,B,B'と計7つ。 これらの枝から次の年の長梢と短哨を選んで残す。

  apres.jpg
剪定後。選ばれたBaguette(長梢)はもともと上の写真で Sarment Bだったもので、Oeil(芽)を5つ残している。選ばれたCourson(短哨)はもともと上の写真で Sarment Aだったもので、Oeil(芽)は2つ(A,B)残っている。この樹は、教科書通りの、前年のCoursonに残った枝から剪定している。でも実際は、こう上手くいかない場合が多く、Baguetteの枝やGourmandと呼ばれるイレギュラーな枝から樹勢の流れ、向き、枝間の距離を推し量って、切る枝を決める。


 冬の寒いBourgogneにおいて、外で仕事をすることは非常に辛い。特に気温がマイナスにまで下がる1~2月は、心身ともに冷えきってしまう。しかし、春の開花の時期までにはすべての畑を剪定してしなければならない。一般にBourgogne地方では、1月後半のブドウの聖人を祝うSt-Vincentの祭りを境に剪定を始める習わしになっている。理想的な時期はブドウの発芽が起こる時期の直前とは言われる。というのは剪定を早くしてしまうと、樹の成長が早くなりすぎて、晩春の霜のシーズンに発芽する危険性が高くなるためだ。だから、次の様な古人の言葉がフランスでは知られている。Taille tôt,taille tard,rien ne vaut la taille de Mars(早きにつけ、遅きにつけ、3月よりも剪定するのに良い時期はない)。
しかし広大な畑を持ち、寒い中で働くのを嫌う造り手は、ブドウの葉が落ちると同時に剪定をし始めてしまう。11月から本格的な剪定を始める所もある。そして、これは実際に畑を回った経験からだが、優良と呼ばれる造り手ほど剪定の時期は遅くなるようだ。しかも、決まって良い畑は最後まで剪定されない。広大な畑をすべて3月だけに行うということは不可能に近いので、造り手の多くは、年末までに一時的な仮の剪定を行っておき、その後で本格的な剪定を開始するようになっている

  Bruler.jpg
剪定した枝を地中に押し込んで肥料代わりに使う地方もあるが、Bourgogneでは基本的に七輪で焼く。枝の病原菌から土を浄化させたいという目的がある。


 2月から仕事を始めた私に割り当てられた仕事は、剪定して残されたブドウの樹の枝をすべて焼く作業だった。さすがに経験の無い素人にいきなり剪定をさせてくれるわけではない。しかしただ単に枝を焼く作業だが、これが非常に辛い冬の仕事である。寒い空の下で、フランス式七輪に火を起こし、ワイヤーに挟まれた枝を一本一本、焼いて行く。湿った枝に火を付けるのは大変なのだが、有機的なアプローチをとる我がワイナリーにおいては、火付け用のアルコールは極力使わない。朝の8時の極寒の中、火がつかないで一時間位凍えそうになったこともあった。繊細なブドウの芽を傷つけないように、枝を除く作業は、実はかなりの時間がかかり、剪定作業よりも時間のかかることもしばしばである。

 先日、 畑の本剪定を体験させてもらった。ずっと剪定の勉強をしていた私の為に、枝を切っていない畑を残しておいてくれたのだ。
 あらかじめ、剪定の定義、哲学については多くの本を読み勉強してはいたが、実際に行うと、また全く違うものである。本に書いてあるように剪定する為の枝が用意されてあることは滅多にない。Coursonから残す枝を二つ選ぶべきなのだが、そう簡単にはいかない。樹勢によって枝の生長の仕方はすべての樹において異なり、病気や、過失による枝の消失、先年までの間違った枝の剪定など、色々な要素が絡み合って、全く同じような樹がないのだ。Gourmandという樹からイレギュラーに生えた枝を旨く選び、二、三年後のブドウの未来を予想して一つ芽を残したり、それをCoursonに使ってみたり。樹勢の低いCoursonとのバランスを考慮してBaguetteの芽の数を普通よりも減らして、樹勢の配分を調整したり。芽から二つの枝が双子の様に生えている場合は、それらをCoursonとBaguetteにしてはいけなかったり(片方は実にならない)。こういう剪定作業は、実際に経験しないと、理解できない。百聞は一見に如かず。

  Taille.jpg


 剪定をしている時に感じたことが一つある。
 剪定され続けて来たブドウの樹一本一本には、強い過去のメッセージが残っているのだ。ここまで生長するに至った歴史がすべて刻み込まれている。年を経て大きく生長した痕や、前の年に病気になった痕は勿論のこと、時には去年に剪定したした人の意思が残っている。先人の強い意思が剪定跡から辿れる。先年の樹の下に残った出来損ないの枝を、前に剪定した人がちゃんとそれを揃えて残しておいてくれたお陰で、今年の剪定の際に、その樹を若返らせるため(樹の切る高さを低くする)によりよい枝と芽を選ぶことができる。
 先人と、今その場で剪定する私の間のキャッチボール。
 私はそれに答える為に、次の年の剪定がより上手くいくための小さな可能性の芽を残す…。
 それは未来への私からのメッセージである。
 そういう意味において、剪定を行うということは、自分の足跡をそのブドウ畑の歴史に残す作業なのだと言える。
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[ 2018/02/05 19:24 ] 栽培 | TB(0) | CM(0)



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