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Visit Report;32 Fattoria di Caspri -AlsaceとToscanaの狭間-


 イタリアは魅惑の地である。
ここフランスにても、イタリアに引かれてに、いつでも飛んでいきたい衝動に駆られる時がある。フランスにはない、ある種の魅力がある。豊穣な大地、温暖な気候、自由な気風、に満ちた素晴らしい国である。


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 ここフランスに住む人々にも、そう感じ入る部分があるようだ。イタリアのトスカーナでワインを造ろうと決心するにいたった一人のアルザス人がいた。
 ベルトラン・エブシガー(Bertrand Hebsiger)は43歳。もともとアルザスの三ツ星レストラン・ラルンスブール(L'Arnsbourg)でソムリエをしていたが、スイス人のオーナーからワイナリーを経営しないかと誘われ、2006年から転身してワイン造りを始めた。Firenze(フィレンツェ)から南に下ること約50kmに位置する Montevarchi(モンテヴァルキ)市のすぐそばの場所にこのワイナリーはある。当時アルザスにいた私は彼と出会ったことで、未知なる世界が開け、イタリアに行くための架け橋となった。ベルトランのワイナリーに滞在した一週間の記録から、Chiantiという産地の現状と、イタリア・ワインの課題点を探ってみた。


1, IGT Toscana


 初めて彼のワインを飲んだのは2011年の5月だった。当時私が働いてた、ドメーヌ・マルク・クライデンヴァイス(Domaine Marc Kreydenweiss)にて、彼のワインが試飲会に供されたのだ。彼はアントワーヌ・クライデンヴァイス(Antoine Kreydenweiss)の親友でもあった。彼のワインの'09は、非常にピュアで、深みのある味わいを持っていた。偉大なるBourgogneに匹敵する素晴らしい伸びのあるワインがそこにはあったのだ。あまりにも魅了されて、私はその夜の内に、彼のドメーヌで研修したい、と申し出たほどだった。

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 このベルトランの所有するワイナリーは全部で16ha。しかし、葡萄の作付け面積は7haである。しかも、半分近くは近年に植えたばかりで、まだワイン用に使われない若い樹が多い。
Chianti Classicoの境界線を少し外れるために、DOC上では、Chianti Colli Aretini ゾーンに属する場所である。しかし、彼は行政区画や、DOCには全く興味を示さなかった。

有機農法の盛んなフランスのアルザス地方で生まれた彼にとって、ワインとは自然な造りに基づいたものでなければならないらしい。しかし、現在のイタリア・ワイン界の主流は未だ農薬や、化学肥料、人工酵母に頼ったものであり、彼の理想とはほど遠いものであった。

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「60年代から、トラクターで仕事をするために植樹密度を上げたことで、長い成熟期間を必要とするSangioveseは熟さなくなった。だから他の品種をブレンドする必要性が増して、早熟のMerlotを植えるなどという風潮が広まっていったのさ」

Chiantiの現状を一言でこけおろした彼は、相当なニヒリストでもある。イタリア・ワイン界全体に対しても攻撃的ですらある。トスカーナに良いワインを生産する造り手は一人もいない、と看破して憚らない。どれほどの自信過剰なフランス人かと、敵も多いだろう。しかし彼にとって、良いワインとは、人為を徹底的に廃したものであり、限りなく有機農法に根ざしたものでなくてはならない。そういう造り手は現在のイタリアには数少ないということもまた事実である。


「大体、トスカーナには、フランスで言うヴィエイユ・ヴィーニュが存在しない。あまりにも農薬を使って畑をダメにした所為で、ワイナリーは毎年、毎年、葡萄を植え替えている。植樹して20年もしたら、引き抜いて、次の樹を植える。良質のSangioveseクローンを探すためだって? 素晴らしいクローンを探す事よりも、長く、古く生き残ることのできる樹を沢山残すことが品質にとって大切だということが、イタリア人にはわからないのさ」

このワイナリーは、標高250-400mの高地に位置する。「シストと花崗岩の中間みたいな」、火山性の片麻岩(Gneiss)土壌という、トスカーナでも非常に特殊な土壌を持ったワイナリーである。基本的に砂が多く、「乾燥するとコンクリートのように固まり、雨がふると途端に泥土になる」土壌である。薄茶色で中にシリカのようなものを多く含む点が花崗岩に共通するが、シストのように黒板状に割れる。かなり脆い石である。pHの値が高く(7.7)、アルカリ性の土壌である。キアンティ・クラッシコ(Chianti Classico)内のガレストロとは、厳密な意味においては異なるものの、かなり混同されて、同一視されてきたようである。

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Caspriの砂岩。


2、 醸造哲学


 彼はもともと農家の家に生まれたわけではない。ドメーヌ・マルク・クライデンヴァイスの居するアンドロー(Andlau)村の出身であった彼が、最初に職業としたのはレストラン業においてであった。アルザス北部のドイツのラインヘッセンにほど近い、ベーレンタール(Baerenthal)村の三ツ星レストラン、ラルンスブール(L'Arnsbourg)でソムリエを務めた。クライデンヴァイスの影響を強く受けたのか、彼が目指したワイン造りは有機農法のそれである。「まったく添加物を入れていない」と豪語する彼が求めるワインの理想は、所謂「Vin Nature(自然派)」である。今までソムリエであった彼が、いきなりワイン造りをできるはずもない。だからこそ、彼が支持を乞うたのは、やはり地元のワイン生産者であった。それは、ジュリアン・メイエ(Julien Meyer)という、アンドロー村の南約5kmに位置するノータルテン(Nothalten)の生産者であった。最も鋭角な自然派ワインの造り手として、アルザスでも名高く、彼のワイン造りの哲学に最も大きな影響を与えている。


「選択酵母やシャプタリザシオン、機械収穫をすら認める現在のビオディナミの認証制度については多いに疑問を抱いている。最近になってイタリアでビオの造り手が増えてきたと言うけれども、どうしてだかわかるかい? ビオで葡萄を造った生産者には、政府が援助してくれるという法律ができたからなんだ」。


イタリアのビオには懐疑的な彼の哲学は、フランスでも最も過激的な「ヴァン・ナチュール」派である。亜硫酸無添加、極力農薬撤廃、自然酵母遵守の、最も厳しい理想をもつワイン造りのもとでは、イタリアの有機農法など、ママゴトにしか見えないようだ。


「畑の間隔は詰めすぎてもよくないし、長過ぎてもよくない。トスカーナに平均的な列間3mなんていうのは長過ぎて、かえって仕事の邪魔になって意味がない」

 植樹密度は 6500-8500本/Haで、トスカーナとしてもかなり密度が高い。アルザスのそれに似ると言える。剪定法は、基本的にコルドンで、ムルソーのように、数年に一度、ギュイヨに変えることで、樹を若返らせ、病気を防ぐ。もっとも、アルザス人である彼は、ギュイヨでもワイヤーにアーチ状に固定するのだが。さらに、近年に植えたテラスにおける区画では、棒仕立てにする。

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     「サンジョベーゼは気温が問題ではなく、日光照射量が問題となる」


「トスカーナにおける最大の問題は、至る所の畑をブルドーザーで耕してしまったことだ。キアンティの傾斜は、自然なままではあんな風に平らな丘にはならないものだ。確かに仕事はしやすくなったかもしれないが、地中の微生物はもうここ50年は戻ってこないだろうね。もはや、農民が自分たちの手で切り開いたテラスはごく僅かになってしまった」

 2011年度の葡萄畑の状態を聞いてみた。
「予め月カレンダーで'10年は涼しくなるとわかっていたから、剪定の時に長哨を短くして葉を減らした。逆に'11は乾燥した年になるという予測のもとに、長めに残して葉を多く残すようにした。やはり予測どおり、'11は水不足に苦しむことになった。'07もとても暑かったが、冬の間に十分に水分を蓄えていたお陰で問題なかった。しかし、'11の水分欠如のストレスは深刻だった。地下水も干上がってしまったんだ。この年に植えた若木の生長が上手くいかなくて、8月末にあわててかんがい用ホースを通したのだけど後の祭りさ、半分を失ってしまったんだ」

 イタリアでは、フランスで売っているビオディナミ用の月歴カレンダーがなかなか買えないと苦笑しているが、幸運にも年に数回、アルザスとトスカーナを往復している彼には問題はない。

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2011年は若木の成長に苦しんだ。


 醸造は、解放式木製大樽で発酵。

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「サンジョベーゼをコンクリートタンクで発酵するのはよくない。還元的な発酵にしかできないからこそ、ミクロビュラージュのような人工的なテクニックに頼らなければならなくなる。大樽こそが、最も自然な酸素量を供給してくれるんだ」

 ピジャージュを足で行うが、'11からピジャージュよりもルモンタージュを重視するようになった「抽出をより軽くすることでワインのエレガントさが増した」という。


「樽香が嫌い」なので、醸造用には600lの小樽(ドゥミ・ミュイ)を使用。新樽率は低く、'09のみ樽を購入せざるを得なかったために使用。また、他者から旧樽を買うということはあまり良い事ではないと考える。他の造り手の不衛生で、違う味わいの染み付いた樽を使うよりは、自分たちで昔から使っている樽を使用することの方が重要だと考える。

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     醸造期間は15-22ヶ月。そして、その間に、SO2は全くいれることはない。




3、 テイスティング

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'11 (barrique)
Caspri Ciliegiolo : 黒果実、フローラル、強い果実。柔らかく、フレッシュ。タンニンを無視している。焼け付くようなタンニンではない。やや弱い。
Sangiovese(Rosso di Caspri) ; 色濃く、スパイス、アニス、MLF的。ギスギスしてバランス悪く、より苦く、還元。しかし、同じ畑の違う樽は、程よいバランスがあった。これらはブレンドされる。
Sangiovese VV(Poggio Cuccule): 黒果実、チョコレート、ビター、コアントロー、苦み、凝縮感、柔らかく、エレガント。
PN/若いSangiovese mix (rosso or 自家用 magnum):黒果実、ヴルーテ、チョコ、レグリッス、円やかで、広がりのある酸味、100%sangioveseでは出し得ない軽やかさ。「ピノ・ノワールは最も木陰の区画に植えたんだけど、'11は8月中旬に収穫したにも関わらず、潜在アルコール度数は16.7度まで上がったんだ」
Sy/Sangiovese: 黒果実、カシス、桑の実、肉、樽香。テクスチュアが美しく、まだ閉じている。


'10
Caspri Ciliegiolo: 酸味の高さと、獣っぽさ、タンニンはなく、口の中に溶けていく。「10度位まで冷たく冷やして、メルゲーズと食べると良い」とベルトランは言う。

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Ciliegioloは、樹勢が強く、房は細く、小さな種に、実は大きい。この品種を、未だに使っている造り手はもはや残り少ない。

'09
Caspri Ciliegiolo ; ガーネット、濁り気味で、赤紫のリフレ。ブラックチェリー、スミレ、ボンボン、スパイス、煮詰めた赤身肉。味わいは軽く、酸味高く、ジューシーでアエリアン。しかし良く熟している。単調で、軽快、野性的な味わいがフランス南部のGrenache的な印象を残す。
Caspri Rosso di Casspri;ガーネット、濁り気味で、赤紫のリフレ、照りのある色。黒果実、樽からくる杉のようなアロマ、ミント、葉巻、甘いスパイス、高級そうな皮、まだ閉じている。とても深みのある味わい。ヴルーテのように濃厚で、絡み付く酸味。タンニンはそこまで感じない。軽やかなアフターは、軽い土壌ゆえか。
Caspri Poggio Cuccule;ガーネット、濁りがあり、上記のワインよりディープな色調。赤い縁。フローラルで、カシス、ミント、甘いスパイス、樽香。'08よりエレガントさに欠く。より広がりのある優しい酸味。タンニンはとても強いが、とても熟れている。口の中で円錐型に広がっていく、変成岩特有のアフター(St-JosephやDouroのような)。まだ若い。
Caspri Syrah;ガーネット、濁りと照りがあり、赤紫の縁。鉄っぽさ、獣、桑の実、甘いスパイス、シガー。甘く、ジャミーなアタックが、それを支える酸味とともにバランス良くまとまる。タンニンは普通。St-JosephやCôte-Rôtie南部。

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「台木なんていうのはそんなに大した問題じゃない。ビオディナミをきっちりと実践していれば、葡萄は自然と土地にあった生長をしようとするのだから」


'08
Caspri Rosso di Casspri : 黒果実、素晴らしいタンニン。重たさも兼ねる。
Caspri Poggio Cuccule : 黒果実。こもった香り、甘みがあり、きめ細かなテクスチャー。Rayasへの一直線。

'07
Caspri Casperius : 凝縮感の強さ、閉じ込められた味わいの強さ。口の中一杯に広がるリッチさ。まるで爆弾のようだ。

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Casperiusの畑。非常に密度が高いが、これこそが、トスカーナの伝統的剪定方法だと彼は言う。


Luna Blu (vino blanco)
'11 紅茶のアロマ、フローラル、カリンコンフィ、ビター。バランスが良い。厚みがあり、強い。
'10 松やに、樽香が強いのは新樽から。時間が必要
'09 この年からスキンコンタクト。カリンコンフィ、色調濃く、分厚いワイン。苦み、力強さ。フルボディ。
'08(barrique) 蜂蜜、揮発酸、酢に近くとも、上手くそれを隠している。酸度が高い。瓶詰めマダ。しかし、長い熟成を経て丸みを帯び、素晴らしいバランスを獲得しつつある。


赤ワインはすべて、味わいのアタックが優しく、スムース、非常にリッチなのに柔らかい。非除梗というのも手伝ってか、Pinot Noir的、Grenache的なワインを生み出している。特にPoggio Cucculeの繊細さは、際立っていて、年々、品格が溢れ出て来ているようだ。
Luna Bluは特殊な白ワインで、非常に酸化香が強い。ベルトランが実験に実験を重ねて品質改良に努めている。


「トスカーナのワインは重たすぎる。一本のワインを一日に飲みきれないようなワインに興味はない」

近辺のワインには手厳しく、シャトーヌフ・ド・パープの「シャトー・ライヤス」を理想と語る彼のワインの味わいは、滑らかで繊細、そしてエレガント。強い印象があったサンジョベーゼも、タンニンが熟れていて、優しく口の中に溶け込み、のど越しの柔らかさ〜フランス人の言う飲みやすさ Buvabilité〜を追求したものである。



4、 総括

「ちょうど60-70年代あたりから、世の中の仕組みがおかしくなりだした。地元でとれる作物に見向きしなくなって、外国の工場で大量生産された安価なものばかりを食するようになることが問題なのさ。無駄な加工、無駄な包装、無駄な輸送、無駄な人件費と、無駄ばかりが増えて、結局は資源の無駄遣いが増えている」


 ベルトランは、戦う醸造家である。自分なりの視点から、世界中の仕組みを看取し、憂えている。マルク・アンジェリや福岡正信の思想に近いと思う。だからこそ、彼の目標は完全な自給自足のできる農場造りである。

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オリーヴ畑も多く所有。「1984年の寒波の所為で、トスカーナのオリーヴは死に瀕してしまったんだ。ごらん、樹が二股、三股に伸びてしまったのはその時の名残さ」


「自分の豚を持っているので、近所の農家にハムを造ってもらっている。そのかわりに、彼らのワイン造りと販売を手伝ってもいる」
「サクランボウやリンゴ、洋梨、ミラベルを植えた。いつかは祖母のように、全部を混ぜて蒸留酒を造りたいと思っている」


 こういった考え方や、哲学は、やはり、彼がアルザスに生まれたということと関係している。フランスでも、有機農法の考え方の強い地方であり、その考え方はよく体系化されている。だからこそ、そのノウハウをいかそうと努力している。トスカーナの現状を憂え、イタリア・ワイン界に絶望的な彼も、アルザス流のやり方で、それを変えようとしているのだ。「今は、次の世代に残すための努力が必要である」と言う、彼の挑戦は続く。


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シャンブルドットも営んでいる。豊穣の地、トスカーナならではの、ゆったり感がそこにはあった。



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[ 2012/11/19 22:31 ] VR(Visit Report) | TB(0) | CM(0)



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