開花 ~ワイン醸造の現場から その4~

Bourgogneのブドウの開花(2010年6月)


花が咲く。

               Fleur Chassagne


なぜ、「花」が咲くのか。
今までずっと、「花」というものが存在する意味を知らなかった。
観賞用としての「花」は後付け的なものであって、それ自体は別の用途して存在する。

つまるところ、植物が「花」を生む目的は、種をつくるためである。
花の雄しべと雌しべが受精して、果実が生まれる。
その果実の中に安置された種は、運がよければ芽をつけ新しい個体として繁殖する。
しばしば植物は、新しい種の繁栄能力を高めるために、色々な遺伝子を収集したいと望む。
自分から動く事のできない植物は他の動物を媒介として花粉を拡散したいと望む。
そして、媒介者をなるべく多く惹き付けるために、植物は香り高く、色調豊かな、「花」を生むのである。
それまで全く特に目立った姿形を見せたわけでもない植物が、最も美しく輝く瞬間。
深い彩りと、目映い匂い。

   Nouaison.jpg
   雄しべと雌しべが結実(Nouaison)して、実が生まれる。

ブドウの花はあまり特に有名でもないし、目立ったものでもない。
しかし、スクスクと育ったブドウの樹は、5-6月のある晴れた日に「花」を咲かせる。
花が咲いて、結実するまでの一瞬の間は、Bourgogne中がブドウの花の香りに包まれる。

ブドウの開花(Floraison)は、ワイン生産の中で最も重要な出来事の一つである。
一般的に、開花が始まった日から数えて100日目が収穫の日の目安となる。
つまり、開花後のブドウの生育状態が、ワインの成熟度を左右するということである。

開花時のブドウの状態は不安定であり、最もデリケートな期間である。
開花中の天候が、ブドウの実の受粉条件を変えるからだ。
ブドウの結実(Nouaison)が上手くいかないと、結実不良(Coulure)になったり、種無し(Millerandage)になったりする。
最も、Millerandageはブドウの凝集感が上がるので、少し混じる程度ならば、歓迎される傾向にあるが。
しかしながら、この時期に雹でも降ろう物ならば、その年の収穫の何割かを断念しなくてはならなくなる。
だから醸造家達にとってとてもストレスのかかる時期である。


   BunP.jpg
   この連載で常に追っているChambolle-Musignyの畑の開花。

BIVB(Bureau interprofessionnel des Vins de Bourgogne、ブルゴーニュワイン事務局)の出している報告書によると、2004年の開花日は、6月13日(Côte de Nuits,PInot Noir,Côte de Beaune,Pinot Noir)、6月10日(Côte de Beaune,Chardonnay)。同じく2007年は、5月24日(Côte de Nuits,PInot Noir)5月22日(Côte de Beaune,Pinot Noir)5月19日(Côte de Beaune,Chardonnay)。2008年は、6月15日(Côte de Nuits,PInot Noir)、6月14日(Côte de Beaune,Pinot Noir)、6月11日(Côte de Beaune,Chardonnay)。2009年は、5月31日(Côte de Beaune,Pinot Noir)、5月28日(Côte de Beaune,Chardonnay)。

地球温暖化が囁かれる今日、開花日はどんどん早くなる傾向にある。
例えば上記の2007年を見てみると、それが確認できる。4月の天候がとても良かったので、成長は非常に早くなり、収穫は8月に始まった。あの猛暑の2003年に続くスピードである。
開花時の天候も重要で、開花が早く完了したのか、それとも長引いたのかが、とても重要である。
この時期の天候が不安定だと、開花する畑がまばらになり、収穫期の熟度もバラバラになるということだ。

   BunP2.jpg
   先の畑の結実の様子。黒ずんだ実は、結実不良である。結実不良が多いと、房の量は減る。

さて、畑を観察していて、気づいたこと。
ブドウの開花、同じ樹でも、地面に近いものから始まる。樹の先端から発芽する時と少し勝手が違うのだろうか。
下の方の実からどんどん、花が咲き、段々上にまで達して行く。

そして、刈られずに生き残ったアメリカ台木の花もとても早く咲く。これらは、2-3週間くらい他の品種よりも早い計算だ。
これは、死にものぐるいで、生きたいと望む、防衛反応なのか、それとも、そもそも台木の品種は成長が早いのか。もしくは、やはり根に近いと早いのか。

我が、Domaine Laurentで最初の開花を発見したのは、6月7日月曜であった。それはGevrey-ChambertinにあるAOC Bourgogneの畑だったので、そこよりも生長の早い特級などではすでに開花が始まっていただろう。
ただし開花といっても、ほんの少し花が開いた実があっただけなので、この日をもって開花日とは言えない。
平均してみると、6月11日位(Côte de Nuits)になるので、そこから100日後とすると、9月19日位が今年の収穫開始予想日となる。

ということは、例年よりやや遅れ気味である。
これは、4月後半の天候が非常に冷涼だったことにより、もしかしたら12-2月の厳しい寒さも影響しているのかもしれない。
最も、Côte de Nuitsの畑は25年降りの、冬の霜害を受けたため、開花状況はさらに混乱していると言える。

               P1070674 WIRE
               ワイヤーに沿って固定された畑。

開花と並行して、我々が行っている作業は、小枝をワイヤーの間に固定する作業である(Relevage)。
発芽以降、小枝はどんどん伸びる。天に向かって一心不乱に伸びる様は、樹が無機的に見えるのにたいして対照的に、非常に有機的である。
闇雲に伸びるブドウの樹を正しい形に整えつつ、引き続き芽掻き(エブルジョナージュ)を続ける。
Baguette(冬期剪定の時に残した一年前の枝)に残った小枝の数を適切な数に調整したりもし、これは小枝の間の通気性を高める目的もある。
ワイヤーに固定し、Guyot Simpleの剪定法で、うまく整えられた畑は、見た目にも非常に美しい。
職人芸が発揮される。機能美と造形美が一致する瞬間といえる。

               Porte Greffe
               打ち捨てられたブドウ畑にて見つけた、アメリカ台木の咲かせる花。

さてさて、あと100日間。これからのブドウの成長が楽しみである。
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[ 2018/06/21 23:18 ] 栽培 | TB(0) | CM(0)

発芽 ~ワイン醸造の現場から その3~


ブルゴーニュ地方における発芽とエブルジョナージュ作業(2010年4月)


冬眠状態のブドウの樹は、茶色の皮で覆われ、生命感が全く見られない。
厳しい自然の中を生き抜くためには無防備な身体を晒すわけにはいかないからだ。

しかし、3月の暖かい空気を浴びると、木々は樹液を体中に張り巡らすようになる。樹の下に隠れていた小動物たちも、もそもそと外に顔を出すようになる。
冷たく静寂の期間は終わり、今再び、太陽の季節がやってくる…。厳しく寒い季節が終わり、春の日差しが野を照らすと感じたとき、それに呼応して、地上の木々も、緑の芽を一斉に開かせる。

            0 Vogu
            新芽が出た。

Côte de Nuitsで、ブドウの樹に、芽の羽毛のようなものが取れて赤みを帯びてきたのは、4月10日(2010年)位であった。
一般に、南の地方の方が発育が早いので、BeaujolaisやMaconなどの地方はもっと前になるだろう。さらに、Chardonnayの方がPinot Noirより若干、生長が早い。だから基本的にに、 Côte de Beauneの方が、Côte de Nuitsよりも早くなる。

  1 debourrer
  Domaine LaurentのChambolle-Musigny。この連載中、毎回追っている同じ樹の発芽。

しかし、ブドウの成長要因はそれだけではなく、色々な要素が複雑に絡まり合い、年によって変わる。
ブドウの樹の生長速度の要素をまとめてみた。

 - 若い樹の方が生長が早い(しかも、Gormandという樹勢の強さによってイレギュラーに生まれる芽を沢山、生もうとする)。
 - 芽が少ない樹ほど生長が早い(少ない芽に栄養が集中するから)。
 - 地面に近い方の芽ほど生長が早い(低い樹の剪定方法だと、生長は早くなる)。
 - Gourmandの生長速度は遅かったり早かったり、生長しきったり、しきらなかったり、まちまち(しかし、Gourmandは基本的に地面に近いほうに出来やすいので、生長は早いことが多い)。
 - 気温が高い方が、生長が早い。
 - 丘の方が平地よりも生長が早い(斜面は、南>東>西>北の順番)。
 - 基本的に特級から一級、村名、地方名へと生長速度が変わる
 - 台木の種類によって、生長速度は変わる。
 - 前年の収量が低いほど、生長は早い。
 - 樹勢の強い樹ほど生長が早く、多産。
 
あと、これは推測だが、

 - 丘の上の方が生長が早い(太陽に照らされやすい?)。 
 - Guyot(長哨と短哨)仕立ての方がCordon(短哨のみ)仕立てよりも生長が早い(恐らく、短哨の方が、芽がでるのは早いがゆっくり進むので、長哨の方が素早く生長する)
 - 小さい枝の方が大きい枝よりも生長が早い(これは疑問の予知あり)

芽の生長する量についても色々な見解がある

 - Guyot仕立ての長哨ではまず、先端から発芽し、次にその横から下向きではない(上か、左右を向いている)芽が開く
 - Guyot仕立ての長哨は、前年の収量が低ければ(糖分の蓄えがあれば)、綺麗に開くが、高いと根に近いほうの幾つかの芽は開かないことがある
 - Maconのように、扇型にワイヤーにくくり付けられた仕立て方法だと、芽は先端から開かれるが、生長の速度はどれもが一定になるようだ(Maconの造り手情報)
 - Cordon仕立ての樹の芽の生長はバラバラの順番である
 - Pinot Noirは一つの芽に双子型の枝が出やすい

            2 grossir
            どんどん成長中。


 この時期の芽は非常に不安定で、脆く剥がれやすいため、注意が必要な時期である。特に、この時期に雹が降るとブドウ畑は大打撃を受け、収穫量がかなり減ってしまう。
雹だけではなく、害虫も活動を開始し、芽を食べたり、芽に卵を産みつけたりするようになる。畑の管理も大変で、芽が飛ばないように注意して樹の周りを世話しなければならない。
 ブドウの生長の速度と質の鍵を握っているのは、『樹勢(vigueur)』による部分が大きい。『樹勢』の強い樹ほど生長は早く、そして多産である。醸造家は、強い『樹勢』を如何に、ワインの原料たるブドウの房に集中させるかにかかっている。『樹勢』が強いだけでそのまま放っておけば、実以外の葉や茎の部分の生長を優先してしまいかねない。強い『樹勢』からよりより実を生むために、造り手は、さらに余剰な芽を省く作業を行う。これを「エブルジョナージュ(Ebourgeonage)」と呼ばれる作業である。冬期剪定の間に残した芽をとり、ブドウの生長をコントロールする。たとえ芽をすべて残しても、ブドウは出来るが、味わいが希薄なものになってしまう。量と質は決して相容れないのだ。

  4 pendant ebourge
エブルジョナージュ。余計な芽を刈る作業。


 エブルジョナージュの時期、採る芽の量はDomaineによって違うが、冬期剪定と同じくらい、重要な作業である。大体、一つの芽からブドウが1.5個ぐらいできるので、残した芽の量は収穫量に決定的に影響する。Domaine Laurentでは、畑によって芽の量を変えていた。 AOC Bourgogneは短哨に2つと3つの計5つ残す(これは少し特殊な剪定法)。村名クラスで長哨に5~6つ、短哨に2つ残す。一級クラスは長哨に4~5つ、短哨に2つ。特級クラスは長哨に4つ、短哨に2つ。

 枝についた芽で注意しなければならないのが、一つの芽から一つの小枝がでるとは限らないということだ。まれに2つ小枝が分裂して顕われることがある。三つ子や四つ子になったものを見た事がある。これらの双子の枝は、栄養のバランスが悪く、他者の生長の妨げになるため、どちらかを除かなければならない。片方がまだ生長段階まできてなくて芽を出してないということもありうるので、見分けをつけ辛い。さらに、枝に付いた芽だけではなく、イレギュラーにでてくるGourmandも除かなければならない(épamprage)。
Gourmandは昨年残した枝から出ずに直接、本体の樹から出て来るのもので、その芽からまともなブドウがなることはない(品質低下のVerjusというブドウが出来る)。Gourmandは除くにこしたことはないが、Gourmandにも立派な利用価値がある。来年用の短哨用に残すことで、樹自体の高さを下げることが可能になる(下げることは色々な意味で重要で、ワイヤーにくくりつけやすい、上方にできた病気をカットできる、そして、地面の方に近づけることで、栄養の運搬を効率よくできるなど)。

  8 epamprage
  エパンプラージュ。余計なグルマンを除く作業。


 エブルジョナージュの目的は単に芽の数を制限する目的のためだけに行うのではない。伸びて来る蔓の場所を固定し、よりよく葉と実をならすことで、となりの樹との、もしくは同じ樹の中の枝同士の間の競争関係を防ぐ目的がある。密集した畑の中で、伸びる枝を制限することで、太陽光の中りを良くし、風通しを良くする効果がある。つまり、冬期剪定のみでは出来なかった、ブドウとブドウの間の空間確保を、ある程度まで可能にするわけである。良い生産者ほど、エブルジョナージュを行った後の樹の伸びる形はとてもキレイである。



 それにしても、この作業は、非常に足腰にキツい仕事である。座っては立ち、芽を数え、抜き取る…。しかも、樹の前に腰を降ろすや否や、瞬時に芽の数、双子、Gourmandを除くことを考え、実行しなければいけない(ちんたらしてられない、時間との勝負!)。これをしなくても、収穫は出来るし、収穫量が減らないのだから、しないにこしたことはないと思っている造り手もいるだろう…。

良いワインを造る人は、造らない人よりも、多くの苦労をしている。
努力のない所に結果は生まれない。これは間違いのない事実だ。


            6 DRC Avril1
             DRCのMontrachet。4月になっているのにまだこの状態。実は、DRCは剪定を遅めに行うために、まず最初に1月に仮剪定だけをする。その後、本剪定を行うが、いらない芽を多めに切る。

 例えば、DRCのエブルジョナージュはワイヤーに枝を括った後、すぐに行うようである。Montrachetでは下向きの芽を除き、長哨に4-5個しか残っていないし、Romanée-Contiでは双子になった芽を除いて4-6個のみであった。枝が十分に伸びる前の状態でのエブルジョナージュは、雹が降ると非常に危険なため、入念なる天候予測が必要である(幸い、この半月間、雨は一滴も降らず、太陽に恵まれていた...それを知っていたからこその決断だろう)。



  6 DRC Avril2
  DRCのMontrachet続き。芽が出たが、すでに多めに切っていたので、エブルジョナージュをする必要なく、使われる芽だけ出た。枝の先端から2つ目と4つ目が、先に切られたものであることが確認できる。


  7 RC Conti
  DRCのRomanée-Conti。前もって芽を除いていたとはいえ、イレギュラーの芽は伸びる。特に双子状に伸びる芽は、エブルジョナージュの際に除くようだ。最初の二つの芽は双子だったので、片方だけキレイに切った跡がある。


[ 2018/04/12 18:11 ] 栽培 | TB(0) | CM(0)

整枝 ~ワイン醸造の現場から その2~


Bourgogneの整枝作業(3月-4月)


 ブドウの樹の剪定が終わると、次は畑の修復作業が始まる。
 長年使って、腐ってしまった杭や、錆びたワイヤーを交換する作業である。

           bar a mine

 もう一度、すべての畑を回って、土を掘り起す。Bar à mine と呼ばれる鉄棒を地面に突き刺し穴を穿ち、その後で杭を打ち込む。畑によって、地表から地母石(Roche de Mer; 地表下にある土壌の核となる層、Bourgogneの場合は石灰岩)に至るまでの距離が違う。例えば、急斜面の Nuits-Saint-Georges 1er cru Damodes は石灰がごろごろと露出していて、土に穴をあけるだけで一苦労で、杭を打つのはもっと大変。他にClos Vougeotや、Nuits-Saint-Georges Villages St-Julien などといった畑も石灰の層に達しやすい。逆にVosne-Romanéeの特級、Échézeaux に接するChambolle villages En Orveaux は石ころが沢山目に見える割に土は深く、鉄棒を入れる必要がない。だからこういった土壌は表土が深く粘土質である。
 粘土質が多いのか、石灰質が多いのか。隣接する畑でも、地母石に達する深さが違って、Bourgogneの畑のクリマの違いの奥深さが垣間見れる。

           attack

 一般に、石灰の地層が近いほどワインはミネラルに、遠いほどフルーティーになりやすい。それは、ブドウの根が地下水脈を探して伸びる過程において、無機質に富む石灰からミネラル分を吸い、有機質に富む粘土質から果実分を得るからだと思われる。斜面は、土が下へ下へと流出しやすい構成上、表土面積が薄くなりやすく、地母石が露出している所も多い。『Perrieres』 や 『Cras』、『Criot』 など、「石」を意味する用語のつく畑が、すべからく斜面状になっているのは理由があるのだ。蓋し、Bourgogneのワインの個性は石灰(無機質、ミネラル)と粘土(有機質、果実)の配分のバランスにより発生するのである。

 杭を打ち付けると、今度はブドウ樹間のユルくなったワイヤーを張り直す作業に入る。畑の端から端まで、ワイヤーをピンと張ってまっすぐに延ばす。整枝前にキチンとワイヤーを張っていないと、ブドウの Baguette(長梢、棒状の枝)がまっすぐに整えられない。さらにこの作業が遅すぎると、後に発芽する芽が樹から落ちかねない。地味な作業だが、重要な仕事である。

 畑の修復作業も一段落すると、ワイヤーにブドウの枝を巻き付ける作業がはじまる。ブドウの樹は何もしないでほっておくと、枝が左右に伸びほうだいで、場所ばかりをとってしまい、樹同士の生長を邪魔してしまう。フランスのほとんどのワイン用のブドウの樹は畑に張り巡らされたワイヤーを用いる。Guyot Simple 剪定をされたブドウの Baguetteの部分はワイヤーに沿って横向きに括り付けられなければならない。これまで冬眠していた樹の枝を横に向ける作業が大変なことは理解に苦しくない。それを無理矢理、ねじまげる。枝が折れたら、そこについていた6-8つほどの芽が無駄になる(5-10房のブドウ)。一本折ったら、ワイン1本位失われる計算である。Village(村名格のワイン)ならまだしも、Grand Cru(特級格のワイン)だと一本の枝を折る事は、40euro位の損失である(すこしオーバーだが)。

           avant

apres



 Baguetteを折らないために気をつけなければならないことは、ズバリ、樹の高さである。剪定の際に選ばれたBaguetteが低い位置に、つまりワイヤーの張られた高さ、もしくは側面の距離が近いことが、重要なのであるしかし、そのためには日頃から訓練を積んだ人が剪定をしていることが大切で、数年来の剪定技術の結果が反映される。事実、我がDomaineにおいて4年間剪定済みのMeursault PoruzotとNSG Cerisiersの畑はブドウの樹が完璧な高さにあり、ほとんど枝を折らずに済んだのに対し、新しく入ったChambolleやÉchézeauxなどの畑はポキポキ、枝が折れて心休まることがなかった。良質の造り手というものは、基本的なことをしっかりと、そしてきっちりと行う事によってそのようになるのである。

 その他に、湿気も重要で、雨が降った時は枝が折れにくい。また、樹液が流れ出した春の時期、つまり冬眠が終わった頃合いは枝が柔らかくなる。雨が降ったタイミングに整枝作業をすることも一つのテクニックである。もしかしたら、フランスの南部でワイヤーを必要としないGoblet式の剪定が採られているのも、乾燥した地方においてワイヤーに枝を這わせるという考え方が生まれなかったかもしれない。

整枝が終わると、あとは芽が開くのを待つばかり。
Bourgogneは春になった、そう、もうすでに生命の息吹が起きだす季節は到来している。


[ 2018/03/14 09:28 ] 栽培 | TB(0) | CM(0)

剪定 ~ブドウ栽培の現場から その1~


 2018年になって、もはや一ヶ月たった。時が経つのは早いものである。
 他のワインウェブに投稿したりしたこともあって、自身のブログ更新がおぼつかない。もう一年半の間、何も書いてない。
 ただ古いサイトを整理していると、BourgogneのDomaine Laurent père & filsで働いていた昔の記事が出て来た。

 ワインの情報や、アペラシオン法、病害などの変化はあっても、葡萄畑の現場で行われる仕事はそうは変わらないはずだ。
 そこで今回は、今年の葡萄畑の仕事をなぞるタイミングで、この古い記事に少し手を加えて掘り起こしてみようと思った。

  Cold Field


Bourgogneの剪定作業(2010年1月-3月)

 ブドウは他の植物と同じで、ほったらかしにしておいても勝手に生長する。上へ上へ、陽光をもとめて、何かにからまって登っていこうとする。全く何もしないで放っておくと枝や葉が伸び放題になってしまう。そうなるとブドウの実の養分は、枝や根、葉にとられてしまう。ブドウの実に与えられる養分が少ないと、そこから出来るワインの味も良くはならない。良いブドウを作るために、よりよく養分を実に集める為には、人が手入れをしなければならない。そういう意味において、ワインはナチュラルな飲み物とは言えない。「ナチュラル・ワイン」という表現を私が好まないのはそういう事を念頭においているからだ。それは、育児をする時に、赤ん坊に服を着せたり、離乳食を与えるかのようなものだ。栽培家に丹念に仕上げられたブドウが、醸造家によってより良いワインへと昇華される。

 冬の仕事の基本的作業は、ブドウの枝を剪定することである。無駄な競合をすることを避けるように、一つ一つ、枝を選んで切る。間違った剪定をすると、枝やそこから伸びる葉、実、蔓などが、お互いに邪魔しあって、光合成を妨げたり、病原菌の住処を造ってしまう。ブドウの樹勢に合わせ、最も適した枝を数本と、芽を幾つか選び、それ以外はすべて除去する。樹勢とは、樹が生長するためのエネルギーのことで、生命力の強さの顕われである。品種ごと、クローンごとに樹勢が違い、それが強ければ、樹にはより多くの葉が生まれ、枝が強くなり、ブドウの実も多く育つ。強すぎても、弱すぎても良くない。剪定の目的は、樹の持つ樹勢をよりブドウの実に導き、味わいの質を高める努力をすることである。ワイン造りに当たって、この剪定という作業ほど熟練を要する仕事はない。何故ならば、その場で選ばれた枝は、その年の収穫量、品質に影響するばかりか、二~五年後のブドウの状態にまで影響を与えるからだ。そして、間違って枝を切ってしまおうものならば、ブドウ自体を殺してしまいかねない。剪定とは、ワイン造りに置いて最も職人芸の要する作業である。

 Côte d’Orの剪定スタイルは基本的に Guyot Simple(ギュイヨ・サンプル)と呼ばれるものである。造り手によってはCordon de Royat(コルドン・ド・ロワイヤ)やLyre(リール)と呼ばれる違う性質の剪定方法を行う所もあるが、このGuyot Simpleが最も一般的である。この剪定方法は、短哨の枝と長哨の枝を一本ずつ残す方法で、Coursonと呼ばれる短哨に芽を2つ、Baguetteと呼ばれる長哨に芽を5~8つ残す。明くる年の収穫の際には、前年のCoursonの下の枝をその年のCoursonに、上の枝をBaguetteにするということを繰り返していく。一つのBaguetteの芽の数を少なく残した方が、個々の樹勢の配分が多くなり、良いブドウの実ができる可能性が強くなる。しかし、少なくしすぎた芽が病気に冒され、死に絶えては元も子もない。収穫による利益も考慮して、よりよく伸びるであろう芽を選ばなければならない。樹勢にもよるが、この剪定方法だと、収穫量が低く抑えられる。品質重視の剪定方法と言える。

             avant.jpg
 剪定前の状態。Baguette(長梢)にSarment(枝)が1から4まで、Courson(短哨)に SarmentがA,B,B'と計7つ。 これらの枝から次の年の長梢と短哨を選んで残す。

  apres.jpg
剪定後。選ばれたBaguette(長梢)はもともと上の写真で Sarment Bだったもので、Oeil(芽)を5つ残している。選ばれたCourson(短哨)はもともと上の写真で Sarment Aだったもので、Oeil(芽)は2つ(A,B)残っている。この樹は、教科書通りの、前年のCoursonに残った枝から剪定している。でも実際は、こう上手くいかない場合が多く、Baguetteの枝やGourmandと呼ばれるイレギュラーな枝から樹勢の流れ、向き、枝間の距離を推し量って、切る枝を決める。


 冬の寒いBourgogneにおいて、外で仕事をすることは非常に辛い。特に気温がマイナスにまで下がる1~2月は、心身ともに冷えきってしまう。しかし、春の開花の時期までにはすべての畑を剪定してしなければならない。一般にBourgogne地方では、1月後半のブドウの聖人を祝うSt-Vincentの祭りを境に剪定を始める習わしになっている。理想的な時期はブドウの発芽が起こる時期の直前とは言われる。というのは剪定を早くしてしまうと、樹の成長が早くなりすぎて、晩春の霜のシーズンに発芽する危険性が高くなるためだ。だから、次の様な古人の言葉がフランスでは知られている。Taille tôt,taille tard,rien ne vaut la taille de Mars(早きにつけ、遅きにつけ、3月よりも剪定するのに良い時期はない)。
しかし広大な畑を持ち、寒い中で働くのを嫌う造り手は、ブドウの葉が落ちると同時に剪定をし始めてしまう。11月から本格的な剪定を始める所もある。そして、これは実際に畑を回った経験からだが、優良と呼ばれる造り手ほど剪定の時期は遅くなるようだ。しかも、決まって良い畑は最後まで剪定されない。広大な畑をすべて3月だけに行うということは不可能に近いので、造り手の多くは、年末までに一時的な仮の剪定を行っておき、その後で本格的な剪定を開始するようになっている

  Bruler.jpg
剪定した枝を地中に押し込んで肥料代わりに使う地方もあるが、Bourgogneでは基本的に七輪で焼く。枝の病原菌から土を浄化させたいという目的がある。


 2月から仕事を始めた私に割り当てられた仕事は、剪定して残されたブドウの樹の枝をすべて焼く作業だった。さすがに経験の無い素人にいきなり剪定をさせてくれるわけではない。しかしただ単に枝を焼く作業だが、これが非常に辛い冬の仕事である。寒い空の下で、フランス式七輪に火を起こし、ワイヤーに挟まれた枝を一本一本、焼いて行く。湿った枝に火を付けるのは大変なのだが、有機的なアプローチをとる我がワイナリーにおいては、火付け用のアルコールは極力使わない。朝の8時の極寒の中、火がつかないで一時間位凍えそうになったこともあった。繊細なブドウの芽を傷つけないように、枝を除く作業は、実はかなりの時間がかかり、剪定作業よりも時間のかかることもしばしばである。

 先日、 畑の本剪定を体験させてもらった。ずっと剪定の勉強をしていた私の為に、枝を切っていない畑を残しておいてくれたのだ。
 あらかじめ、剪定の定義、哲学については多くの本を読み勉強してはいたが、実際に行うと、また全く違うものである。本に書いてあるように剪定する為の枝が用意されてあることは滅多にない。Coursonから残す枝を二つ選ぶべきなのだが、そう簡単にはいかない。樹勢によって枝の生長の仕方はすべての樹において異なり、病気や、過失による枝の消失、先年までの間違った枝の剪定など、色々な要素が絡み合って、全く同じような樹がないのだ。Gourmandという樹からイレギュラーに生えた枝を旨く選び、二、三年後のブドウの未来を予想して一つ芽を残したり、それをCoursonに使ってみたり。樹勢の低いCoursonとのバランスを考慮してBaguetteの芽の数を普通よりも減らして、樹勢の配分を調整したり。芽から二つの枝が双子の様に生えている場合は、それらをCoursonとBaguetteにしてはいけなかったり(片方は実にならない)。こういう剪定作業は、実際に経験しないと、理解できない。百聞は一見に如かず。

  Taille.jpg


 剪定をしている時に感じたことが一つある。
 剪定され続けて来たブドウの樹一本一本には、強い過去のメッセージが残っているのだ。ここまで生長するに至った歴史がすべて刻み込まれている。年を経て大きく生長した痕や、前の年に病気になった痕は勿論のこと、時には去年に剪定したした人の意思が残っている。先人の強い意思が剪定跡から辿れる。先年の樹の下に残った出来損ないの枝を、前に剪定した人がちゃんとそれを揃えて残しておいてくれたお陰で、今年の剪定の際に、その樹を若返らせるため(樹の切る高さを低くする)によりよい枝と芽を選ぶことができる。
 先人と、今その場で剪定する私の間のキャッチボール。
 私はそれに答える為に、次の年の剪定がより上手くいくための小さな可能性の芽を残す…。
 それは未来への私からのメッセージである。
 そういう意味において、剪定を行うということは、自分の足跡をそのブドウ畑の歴史に残す作業なのだと言える。
[ 2018/02/05 19:24 ] 栽培 | TB(0) | CM(0)

灌漑 -Irrigation-

 作物は、水がないと育たない。人が水分を摂取しないと数日で死んでしまうように、地球上のほとんどの生物にとって水は必要不可欠な栄養分である。それは葡萄の樹とても例外ではない。


    P1150702.jpg
    イタリア南部、プーリア州における灌漑設備。灌漑用ホースを付けた葡萄畑は、温暖な産地でよく見られるようになった。


 古来より人間は、作物を枯れさせない様に、畑に水を撒く技術を編み出してきた。この灌漑の技術は、多くの野菜・果樹を育てることを可能にし、人間が農作物を供給することの出来る余地を作った。灌漑の技術は権力と密接に関わり、エジプト王国や、中華帝国など、あらゆる国々で治水事業が行われた。作物のならない不毛な地、人が住めないような地に水を通したことは、人類の歴史の歩みにとって、とても重要な出来事であったと考えられる。

 アメリカ・オーストラリアを中心とする新世界においては、灌漑なくして葡萄作りは考えられない。非常に温暖で、夏の期間に雨の少ないこの地の葡萄畑においては、水分が不足しがちで、葡萄は強いストレスを強いられる。実に新世界の全栽培面積の83%、580000haが灌漑を実施していて、特にアルゼンチンにおいてはすべての畑(205000ha)において行われている。しかしながらヨーロッパ(旧世界)においては状況が異なる。年間降雨量が高く、十分な水分が確保されるヨーロッパにおいて、人が葡萄畑に水を撒く行為など不必要なものであった。逆に、太陽が燦々と照り、雨の少ないヴィンテージにおいてこそ、良いワインができる旧世界では、これ以上の水分供給は必要とされず、畑に排水管を設置しているほどである。

 フランスを中心とするヨーロッパのワイン産地では、長く灌漑が禁止されていた。葡萄畑に対する人工的な放水は、ワインの個性と品質を損ない、収量を増加させる手段と考えられてきた為である。しかしながら近年ではその流れにブレーキがかかるようになってきた。フランス南部の産地、Languedoc-RoussionやSud-Ouestでは、深刻な飢饉がここ10数年続いており、生産量が減少している。旧世界の栽培上の常識では、夏期に水分制約を受けると、葡萄のフェノール分と糖分は濃縮し、葡萄の品質が高くなる。しかし過度の水分制約を受けると、結実不良や乾燥を引き起こし、収量を下げるどころか品質をも下げる結果となる。最悪の場合、葡萄の樹を死に至らしめる。このような事態が長く続いた南フランスの生産地を救うために、ようやっとINAOも重い腰を上げた。条件付きではあるが、灌漑を認可するに法律が制定されたのだ。

 1953年9月30日付けのデクレにて禁止されていた灌漑法は、2006年12月4日付けのデクレによって改定されることとなった。内容を要約すると次のようになる。

・8月15日(もしくはヴェレゾン後)から収穫までの期間の灌漑は禁止される。
・Vin de PaysとVin de Table用の畑には収穫から8月15日(もしくはヴェレゾン後)までの灌漑は認可される。
・AOC畑においては、収穫から5月1日までの灌漑は認可される。しかし、6月15日(もしくは開花)から8月15日(もしくはヴェレゾン)までの間は禁止される。灌漑の許可を得るためには、アペラシオン保護協会から灌漑の正確な期間をINAOのディレクターに要請しなければならない。この要請は、区画ごとの正確な調査を必要とされる。


 ここ十数年来、地球温暖化の科学的論証が唱えられつつある。フランスの葡萄産地の気候の変化はだんだんと深刻な様相を帯び始めている。LanguedocのINRA(Institut National de la Recherche Agronomique)が管轄するドメーヌ、Pech Rougeにおける調査によって、断続的な水不足が、90年代から10年代にかけて続いていることがグラフ化されている。水分が不足すると、葡萄の成長が未発達のまま停止し、光合成が減り、若枝の先が死に、根の発達も妨げられる。過度の水不足は次の数年の収穫にも影響する。2006年以降、灌漑は多くの産地で実践され始めて、今現在、南フランスにおける現在の灌漑面積は23000haに及び、全体の10%にまで達した。実に多くの生産者が灌漑の恩恵を受けるようになった。ヨーロッパの他の国でも、灌漑を許容する法律ができつつある。スペインにおいては全体の22%、196693haにおいて灌漑が適応され、イタリアは全体の10-15%、そしてポルトガルにおいても、灌漑面積は増加しているとのことである。


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   カリフォルニアの Au Bon Climatワイナリーにて。この国において灌漑を行う事は必然であると言える。


 昨年に、カリフォルニアを訪れた折りに一際目立ったのが、どの畑にも灌漑用ホースが設置されていたことである。カリフォルニアの気候は非常に温暖で、降雨量は少ない。旧世界においては、夏に雨が少なかった年が偉大なヴィンテージになるケースが多いが、カリフォルニアではその逆で雨がある程度降った方が良いのであると言える。
 しかしながら、如何に雨が降ってくれるかということが重要で、年中雨が降れば良いと言うわけではない。葡萄にとって水分が必要なタイミングと、水を与えすぎてもいけない瞬間は存在する。年間の降水量から、それぞれの産地の個性を捉えることはできない。次に産地ごとの降雨量のデータを調べてみた。

               年間降雨量(mm) 4-9月、発芽から収穫までの降雨量(mm)
California(Sonoma)         747.4        82.8
Bourgogne(Dijon)         722.2        383.9
Alsace(Colmar)          581.4        350.2

 CaliforniaとAlsaceの差から明確なように、年間の降雨量だけでは推し量れない事実が確認される。北カリフォルニアのSonomaは年間降雨量でこそBourgogneに匹敵し、Alsaceよりも多いにも関わらず、Sonomaの雨期は冬に集中して、葡萄の生長に重要な夏の期間に、あまりにも雨が少ない。Franceでは年中ほぼ一貫した降雨量であるのに対し、Californiaでは冬に雨が降り、夏には雨が降らないのだ。この事実は葡萄の生長にとって、とても大きな影響を与えるだろうことは想像に難くない。フランスワインの酸味とアメリカワインの熟度は、全体の降雨量よりも、夏の期間の差が生みだしているのである。

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3年前、Bourgogneの畑で働いていた時の写真。水はけの悪い土壌のもとではすぐに土が水びたしになる。農薬を撒きすぎた畑ほどそうなりやすい。

 このように新世界においてポピュラーとなった灌漑も、旧世界では未だに批判的な考えが強い。灌漑の利点と欠点をまとめてみた。

利点
 ・葡萄の樹の枯死を防ぐことができる。
 ・葡萄の育たなかった産地での生産を可能にする。
 ・適度な水分を確保することは、衛生状態を保持できる。
 ・灌水のタイミングを見計らうことで、ワインの味わいのタイプを変えることができる。
 ・肥料を同時に混ぜることが可能で、そのことが農薬量を減らす事に繋がる。
 ・水分不足で、アロマが減少するテルペン系の品種にとって相応しい。

欠点
 ・水のコストの高さ(ただし、ドリップイリゲーションではある程度制御可能)。
 ・灌漑のやりすぎは、塩水化を引き落とし、生産性を落とす。さらに栄養素が土壌から浸出し、土壌の酸性化を招く。葡萄は塩化物に弱く、クロローシスが発生し、続いて光合成が弱められた結果として果実の熟成が遅れ、小さい実になり、糖分が不足する。さらに養分は土壌から浸出し、土壌の酸性化を招く。
 ・灌水を過度に行うと茎の発達や果実の熟成に影響を与える。過度に大きい果実になり、中の糖分とアントシアニンは減り、房が小さくなり、病気になる確立が高まる。


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   クロローシス(黄疸)に冒された畑は、生産者ごとに比率が異なる。灌漑を行った傷跡なのかもしれない?



さらに、灌漑といっても、色々な方法が存在する。大別すると、次のように四つにわけることができる。

1、Irrigation à la raie (畝仕立て) Furrow Irrigation
 葡萄の樹の列に畝を作り、間に放水する方法。アルゼンチンで主に行われていた方法で、アンデス山脈の雪解け水を利用する。コストがそれほどかからず、葉を濡らさない点が良いが、畑の大量の区画に蒸発効果がある、区画ごとに均等に灌水できない、チューブを交換するなどの作業の為に、時間コストがかかるなどのマイナスもある。

2、Aspersion sur frondaison(葉上からの灌水) Center Pivot Irrigation
 巨大な灌水用の機械を葡萄畑の中に設置して、自動的に灌水する方法。機械調整の最小化、作業の自動化などの利点がある一方、風向き状況に対応できない、ポンプとプレスの価格が高い、葡萄を傷つける可能性がある、葉を濡らしてしまうので、病害や寄生虫の被害の拡大しやすい、均等性の欠如、基本料金の高さ、など欠点も多い。基本的に葡萄畑には適さない方法であると言える。

3、Aspersion proche du sol(地表沿いの灌水)
 小さな灌水機を畑に設置する方法。果実と葉を濡らすリスクが少なく、比較的均等な灌水が可能で、ポンプのコストが高くない、風の影響も少ないなど利点が多い。ただし、監視が難しく、畑の葉管理と雑草管理のコンディションを保たなければならない、畑を設置するので、トラクターが通りにくくなる、非常に綿密な検査を続けなければならない、などの問題点がある。

4、 Irrigation localisée(goutte à goutte)(ドリップ・イリゲーション) Drip Irrigation
 最も普及している方法で、畑の各列にホースを通して、それぞれの樹の周囲に点滴状の水を灌水できる。ポンプのコストは低く、葉を濡らすリスクもなく、均等な灌水が可能で、畑へのスムーズな設置が可能である。さらに使う水の量をコントロールしやすいために、水のコストも抑えることができる。欠点は、水が常に確保できる状態でなければならないのと、メンテナンスと設置作業の困難さ、さらに良質のフィルター掛けが必要である点が挙げられる。

 このように色々な種類の灌漑方法が採られているが、今日では概ねドリップイリゲーションを使う産地が多く、フランスなど旧世界ではほぼ、この方法が導入されつつある。



 葡萄畑の現在の水分量の測定は、葉に窒素ガスを吹き込み、そこからでる樹液の量を測る事によって行われる。その結果に応じて灌水の量を決定する。葡萄にとって水は生体を維持するために必要不可欠であるが、過剰な水の摂取は、葡萄の品質を損なうのみであり、灌水するタイミングが重要である。INRAのHernán Ojeda氏の研究データから葡萄の生長にとっていつ水分供給されるべきかの詳しい図が得られた。

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   Source; Hernán Ojeda "Irrigation qualitative de precision de la vigne" Le Progrès Agricole et Viticole N°7 2007

・発芽ー開花 期間; 枝の正常な生長のために、十分な水分を確保することが必要。水分制限を受けると、枝の生長は減り、開花、結合、もしくは光合成にも影響を与える。このような初期段階の問題を防ぐために、冬眠期間終盤から灌水を開始することが多い。
・開花ー結合 期間; 水分を十分にやることが、花の結合率を高められる。茎に十分な水分供給が整っていないと、完全な葡萄の房を得る事ができないと考えられる。ただし、この時期に雨が降ると、物理的に結合を妨げてしまう(灌水ホースの方が効率が良いという結果になる)。
・結合ーヴェレゾン 期間;収穫量に最も影響する時期である。水分制約は細胞器官には影響しないが、実の大きさを減らす結果となる。(開花からヴェレゾンまでの十分な水分獲得が生長に必要)
・ヴェレゾンー成熟;この時期の水分の量がワインの品質を決定する。水分の制御を抑えることで、収量は上がり、ワインは葉のアロマ、水分が多く、酸が高くなる。厳しく水分を制御することで収量が下がり、ワインは、タニック、重く、アルコリックになる。水分制約が高すぎず、低すぎない事が最も重要となる。
・成熟ー落葉;この時期に水分を確保しないと、この時期の生長を混乱させてしまう



 さらに上記の葡萄畑のサイクルから、様々なタイプのワイン造りにおいて、次のような灌水を行えばよい事が理解される。

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  Source; Hernán Ojeda "Irrigation qualitative de precision de la vigne" Le Progrès Agricole et Viticole N°7 2007

図A: 年間に一貫して灌水し続ける方法。水分制約は避け、常に水分供給ができるようにする。葡萄ジュース用(テーブル・ワイン、幼木用)。
図B: ヴェレゾンから収穫まで期間のみ灌水を制限する方法。実の大きさと光合成を損なわないよう、さらに、糖分と特にアントシアンを多く含有するように、ヴェレゾンから収穫の期間の水分制約は少なめ〜普通にする。アロマティック白ワイン、フルーティー赤ワイン
図C: 結合してからヴェレゾンに至るまでの過程で、水分制約を行う方法。完熟までの期間に、乾燥したコンディションを整え、実を濃縮(フェノールの値と、強いアロマを含むアントシアン)し、収量を抑えることができる。濃縮ワイン
図D:開花後に強い水分制約を課す方法。よく葡萄の状態を見極めることで、アントシアンは濃縮し、さらに実は濃縮する。 熟成型ワイン。


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 まだ収穫のできない幼木(0-3年)への灌水は年中を通して許可されている。というのは、まだ根が土壌に深く這っていない幼木にとって水分供給が十分でないと、すぐに枯れてしまうからである。1ha辺りに6000〜1万本植えるフランスの農家において、これら幼木が育たないと大変な経済的ダメージを被るわけである。特に私がAlsaceにおいて2011年は大変な水不足の年であったこともあり、植樹したての木の生長にヤキモキさせられ、オーナーのストレスは酷かった。醸造家たちが、高品質だが根付きの悪い161-49の台木よりも、安易で生産性の高いSO4の台木を選びたいと思う理由がよくわかったものだ。



まとめ

 灌漑を行うことは、果たしてワインを生産する上で、良いことなのだろうか? 基本的に多雨で、優れた保水性質を持つ粘土質石灰岩の多いフランスにおいては、『灌漑』システムは『テロワール』の歪曲行為であると映るのかもしれない。この技術のおかげで、もともと葡萄を植えることの出来なかった土地でも、ワインを生産することが可能となる。より均等な品質のワインを生み続けることができる。要は、乾燥した年には水を多めに撒き、冷涼な年には灌水を止める。それだけで、ある一定水準の品質のワインが毎年生み出す事ができるのだ。もはやワインとは、古人が数百年の歴史の中で探し出し、見つけだされた、優良の畑でなくとも、人工的な灌水技術があれば、どんな場所でも高品質のワインが作れるということである。古人が、土地と気候に適合した葡萄品種を選んできた旧世界のようなやり方は古くさく、灌漑技術があれば、自分好みの葡萄品種が育つように土地を改良・改変することができる可能性を秘めているというわけである。

 故福岡正信氏が唱え続けた、それぞれの土地に根ざした食物を食べ続けることが、結果的には美味しく、健康に良いという、『身土不二』という考え方に傾倒している私には、灌水に頼らなければならない葡萄作りは異質なものを感じる。果たして、灌水までして葡萄産地を増やすことが必要なことなのだろうか。世界中の需要が新しいワイン産地を望んだとして、気候にあわない場所で栽培することが重要なことなのだろうか。ワインとは、恣意的に「造られる」べきものであるのだろうか。我々が、いつもMontrachetというワインを飲む時に感じる喜びは、Montrachetは「造られた」からではなく、「生まれてきた」ものだからである。かつて人々は、その気候、降雨量、土地にあった葡萄品種を植えることでワインを作ってきた。ワイン用の葡萄を植えるべき場所をちゃんと見据え、選びとってきたわけだ。その過程の中でいつしか優れたテロワールを発見し、品質の高いワインを生み出せる産地を、品種を、栽培法を、醸造法を生み出して来たのだ。土地に手に加えることで、品種を全く異なった土地に順応させることが、理に適った方法であるとは思えない。例えば、Pinot Noirが上手く育たないのであれば、灌漑してぎこちないワインを造るのではなくて、替わりにその地に適応するであろう、Grenacheを植えれば良いのではないだろうか? 

 しかしながら、近年の南フランスの不作事情は、葡萄作りを経験した私には身が詰れそうになる。葡萄がいつものように育たない。引き抜かなければならない木が多くなる。環境が変化して、これまでの生活が続けられなくなるかもしれないという危機感。品質の前に、安定した収入あっての葡萄栽培である。すべてを捨てて一からやり直す位ならば、灌漑という方法に頼りたくなる気持ちはよく理解できる。私は『灌漑』とはワインを造るための『必要悪』の手段なのだと感じる。無ければ無いにこしたことはない。
 今までのように育たなくなった原因が、温室効果ガスの放出といった、人為的な理由であるのだとすれば、これは人類全体の功罪が葡萄畑にまで皺寄せているのだと言える。もしかすれば、いつか近い将来に、地球の温暖化が深刻化して、BordeauxやBourgogneといった産地においてすら、それぞれの品種が上手く育たなくなる時代が来てしまうのかもしれない。そうなれば、我々は最後の手段として灌漑に頼らなければならなくなるのかもしれない。 灌漑技術の導入というテーマで本当に問題にしなければならないのは、実は環境問題なのである。実に、環境が破壊されることによって、ワインの味わいもまた破壊されるということである。


     vignes Pfarz3
ドイツ、Pfarz地方にて、ドリップイリゲーションのホース。如何に、ドイツ南部であるとはいえ、灌水するほどの水不足に陥っているのだろうか? 実は、さらに南のBaden地方、Kaiserstuhlにおいても同じように灌漑を実施している畑を見た。



資料
Hernán Ojeda "Irrigation qualitative de precision de la vigne" Le Progrès Agricole et Viticole N°7 2007
Hernán Ojeda "L'irrigation de la vigne ; Situation française,Europeenne et Mondiale" Revue des Oenologues et des techniques vitivinicoles et oenologiques N°137 ; 36-37, Novembre 2010

ネット資料
http://www4.inra.fr/cepia/Vous-recherchez/des-resultats/irrigation
http://www.vignevin-sudouest.com/publications/fiches-pratiques/irrigation-vigne.php#ancre1
http://blog.livedoor.jp/sugaihi-wineliteracy/tag/ワインと灌漑
http://ameblo.jp/rokudenashichan/entry-10740020764.html
http://www.les5duvin.com/article-irrigation-ou-pas-la-est-la-question-72676788.html
http://www.reussir-vigne.com/actualites/irrigation-viticulture-irrigation-une-urgence:KGE3ZAL9.html
[ 2013/01/10 09:17 ] 栽培 | TB(0) | CM(0)